君は可愛い女の子
サムが「彼女」を気にするようになったのは、入学式から2ヶ月程たった頃だった
サムはカウンター越しに1人の生徒を見ていた
なにか探し物をしているようでキョロキョロしているのだが、他の生徒達より焦っていると言うか、妙な動きをしている
まさかこの店で万引きをしようとしている訳では無いと思うが、人目を気にするような仕草はどうしても不自然に映る
「どうしたんだい、小鬼ちゃん。捜し物ならこのサムにお任せを」
サムはニッコリ笑って声をかける
ビクッと肩を揺らしてサムを見上げる生徒の顔をまじまじと見つめる
そういえば、この生徒は異世界から来た魔力のない子ではなかったか
唯一のオンボロ寮の寮生。監督生と呼ばれている生徒だ
「あ、あの」
「なんだい?」
監督生はもじもじしながらサムを見上げる。
「あの…………ありますか…?」
顔を赤くし、何故か泣いてしまいそうに言われたそれを、サムは上手く聞き取れなかった
いや、聞こえたのだが、意味が一瞬わからなかった
「すまない、もう一度聞いてもいいかい?」
「生理用品と、パンツ、ありますか」
監督生は羞恥で死んでしまいそうな顔をして、制服の裾を握りしめ、蚊の鳴くような声でもう一度言った
「その、急にきちゃって…」
涙を浮かべはじめたのをみたサムはハッとして
「すぐに準備するよ!」
と慌ててカウンターの裏へと引っ込んでいった
「Hey!小鬼ちゃん、必要なものはこの袋の中に入れておいたからね」
「ありがとうございますっ」
「未だに小鬼ちゃんが泣きそうな顔をして店に来たのを思い出すよ」
「もー、サムさん!やめてくださいよー」
サムがからかうように言うと、監督生は照れて頬を赤くして笑う
サムは初めて監督生が女の子だと知った時、思わず顔を覆いたくなった
ただでさえ異世界から来て不安が多いのに、性別の事を誰にも相談できずに悩んでいたんだろう
まさか男子校の購買部に女性物の下着や用品が1式あるとも思わなかっただろうし(授業参観やイベントの際に万が一必要になると困るので多少予備はあった)あの時だって急を要し追い詰められてから初めてサムを頼ったのだろう
出来るなら、もっと早く気が付いてあげたかった
サムは小さな少女の頭を撫でる
「あの時は本当に驚いたんだぜ?ろくな下着も準備も何も無いって言い出したから」
「サムさんが学園長にお話してくれて、色々買ってもらえて助かりました」
監督生は頭を撫でられ嬉しそうにする。何かと気にかけてくれるサムのことを慕っているのだ
サムは目を細めて監督生の顎の下に手をやる
教員達には女子であることを伝えたが、生徒達は監督生のことを自分たちと同じ男子だと思っている
万が一、バレてしまったらどんな目にあうか。
サムはこの小さな少女を守ってやらなければと常々思うようになっていた
顎を持ち上げ、キスでもするかのように顔を近付ける
「小鬼ちゃん、何か困ったことがあればいつでもMr.Sのミステリーショップに来てくれよ」
俺が力になるからね。
サムが優しく微笑むと、監督生は
「はい!」
と元気に返事をした
☆☆☆
サムは店にある隠し部屋のひとつを片付けながら笑う
もし何かあれば、あの子は俺が守ってやらなければならない。
誰にも触れさせないように、閉じ込めて、大切に守ってやらないと
今はまだ必要ないけれど
「いつか必要になるかもしれないからね」
男は笑う。外からしか鍵の開かない部屋で
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