自分の為に怒んなよ

「ハルト、落ち着け!俺は大丈夫だから!!」

額から血を流しながらジャックが必死に叫んで、ハルトを羽交い締めにしている

ハルトは我を忘れているようで、歯を剥き出しにして叫んで魔法を放つ

「よくも!よくも友達を傷付けたな!!」

氷で出来た鳥が飛び交い、逃げ惑う生徒達に襲いかかる。

既に何人かは地面に転がって血を流したり、体の一部を凍らされ呻いている

「おい!アイツら死んじまうぞ!俺は大丈夫だから!!頼むからハルト、落ち着け!!」

騒ぎを聞きつけ中庭まで様子を見に来たフロイドは、普段と違う様子のハルトを見つめ

「ハルト?」

と呟いた



ハルトの手を引き、次の教室へ向かいながらフロイドは

「やられたらやり返せばいいじゃーん」

と言った。

「んー、そうなんですけど、そういうの得意じゃなくって」

フロイドはハルトと付き合っている

取っ付き難い、何だか近寄り難いと言われるディアソムニア寮にいながら小柄で人懐っこいハルトはよく他の寮生に絡まれたり虐められたりしていた

フロイドと出会ったきかっけも、複数の生徒に付き纏われて逃げ惑っていたハルトに興味を持ったからだ

逃げ惑っていたと言っても、魔法は全て防いでいたし本人は全くの無傷だったが。

どうやら攻撃を全て弾くクセに反撃をしてこない事で、腹を立てた相手共が勝手にエスカレートして来ているらしい

今日も恋人に群らがる小魚達を蹴散らしたフロイドは、頬を膨らませて子供のように怒る

「言い訳は聞きたくないの!また変なのに絡まれたら、ちゃんと俺を呼んでよね」

「善処します」

背の高いフロイドに覗き込まれ、ハルトは困ったように笑う

フロイドはムッと顔を顰めた

「俺、その顔嫌い。いじめられてる時、いっつもその顔すんじゃん。」

「そう?」

「そう!ハルトは怒ったり泣いたりしないの?」

「んー、するけど、フロイドほど表に感情が出て来ないってだけ。多分」

フロイドはふーん。とつまらなそうに言って背中を起こし、ハルトの髪をぐしゃぐしゃと撫でた



いつだったか、たまたま近くにいたカリムに、気紛れでハルトのことを相談したことがある

「怒れないわけじゃないんだろ?」

カリムはフロイドにそう言った

「俺だって、腹が立つこともあるし、泣き叫びたいことだってあるさ」

「えー?ラッコちゃん、全然そんなふうにみえないけど」

いっつもニコニコ楽しそうじゃん。とフロイドが首を傾げる。

カリムはいつものようにニッと朗らかに笑って

「それは、そうありたいからな!ずっとムカムカクヨクヨしてても周りも嫌な気分になるだろ?」

俺は賑やかで楽しい方が好きだからさ

「そういう事はさっさと忘れることにしてるんだ」

カリムは頭の後ろを掻いて少し照れたように笑う

フロイドはつまらなそうに口を窄めふーんと相槌をうつ。

カリムはそんな退屈そうなフロイドを気にした風もなく続ける

「ハルトだって、怒らない訳じゃないと思うぜ。まぁもしかしかたら」

怒り方がわかんねーのかもな

カリムはフロイドから視線を外し、天井を眺めて静かにそう言った。

フロイドには、なぜだかその表情が少し寂しげで印象に残った



「ラッコちゃんの言う通りだったのかもね」

フロイドは激昂する恋人を見つめ、呟く

喧嘩慣れしている人物は無意識に手加減するから、案外人を殺さない。なんて雑学を話していたのはジェイドだったか、アズールだったか

逆を言えば、普段怒らないし手を出さないハルトは加減が分からず殺してしまう可能性が高いとも言える

今はジャックがなんとか抑えているがこのまま放っておけば、必ず死者が出る。フロイドにはそんな予感がした

正直普段から恋人にちょっかいを出す奴らなど死んでくれた方が嬉しいのだが、我に返ったハルトはきっと後悔するだろう

フロイドはマジカルペンを取り出し中庭に降り立つ

自身のユニーク魔法で飛び交う氷の鳥の軌道をズラし、ハルトの真ん前まで歩み寄よる

興奮しているせいか、目の前の人物が自身の恋人だと未だ気が付かないらしいハルトの頬を両手で挟んで覗きこむ

「ばぁ!」

「…………。……フロイド?」

「そう、俺。ハルト、ウニちゃん困ってるよ。魔法解いて」

「ジャック?」

ハルトはぱちぱちと瞬きを繰り返し、頭を振る。ジャックが羽交い締めにしていた腕を離す

「なんか、頭、クラクラする」

ハルトは足の力がぬけたのか、そのままストンと地面に座り込んでしまった

臨戦態勢で放たれる予定だった氷の鳥が砕けて雪の結晶を降らせる

「あは、きれーじゃん。」

「俺、何してたんだろ…」

呑気に結晶に手を伸ばし空を見上げるフロイドに代わり、ジャックが説明する

「アイツらが打ってきた魔法が俺に当たって額が切れちまったんだ…そしたらお前、すげー怒ってアイツらをボコボコにし始めたんだ。覚えてないのか?」

「なんかジャックが怪我した時に、頭の中がグチャグチャになったような…って、ジャックは大丈夫だった?」

ハルトは慌ててジャックを見上げる。ジャックは呆れたように笑って

「これくらい掠り傷だ。もう血も止まった。正直この傷よりも、お前の魔法にビビったぜ」

と首を横に振る

「もう落ち着いたみたいだし、先輩もいるから俺は行くぞ」

「うん、ごめんね。ありがとう。またちゃんとお礼するね」

ジャックはへたりこんでいるハルトの頭をくしゃりと撫で、フロイドに軽く頭を下げてから歩き出す

「話し終わった?」

「うん」

「ありがとね、ウニちゃん」

フロイドはばいばーいとジャックに手を振る。

「その、死んでないよね、あの人たち」

「ピクピク動いてるし、大丈夫でしょ。」

フロイドは興味無さそうに適当に返事をして、それよりさー。と笑う

「ちゃんと怒れてえらかったね、ハルト」

フロイドはハルトと目線を合わせるように屈んで、頭を撫でる

「……は?」

ハルトはぽかんと口を開ける。

注意されるか叱られると思っていたが、まさか怒りに任せて暴走してしまったことを褒められるとは予想だにしなかった

「ラッコちゃん言ってた。ハルトは怒らないんじゃなくて、怒り方がわからないんじゃないかって。俺は我慢しなくてもいいと思うし、怒るのも大事だと思うし…よくわかんねぇけど」

フロイドは言いたいことが纏まらない様子で焦れったそうに顔を歪めて後頭部を掻く

「んー、まぁ、ハルトが怒れて良かったって思ったの!」

「はは…変なフロイド。………ありがと」

ハルトはへにゃんと脱力したように笑う。

「でもきっと、後で寮長達と先生達に怒られるや。」

「バックレりゃいいじゃん。」

フロイドは未だ立てないらしいハルトを抱えて歩き出す

「コイツらも、そのうち誰かが気付いてどっか持ってくでしょ」

「いいのかなぁ、それで」

「ハルト、今度は自分の為に怒んなよ」

フロイドはケラケラ笑ってハルトと額を合わせる

「そんな気になるなら、アイツらの処理はアズールに任せよ」

ハルトは少し困った顔をしたが、フロイドのオッドアイを見つめて

「まぁ、フロイドが言うならいいや」

と笑った



☆☆☆
アズール「フロイド!!急に呼び出したかと思えば、氷漬けでボロボロ生徒の処理をしろだと?対価を要求します!!!」

ジェイド「派手にやりましたね…一体彼らが何をしたんですか?」

ハルト「すみません、やったの俺なんです…」

アズールジェイド「「は?」」

フロイド「ハモったじゃん、ウケる」

アズール「その話詳しく 」

ジェイド「本当に何したんですかこの方々」

ハルト「そんな食い付かれると困るなぁ」


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