居場所

レオナは自室で眠っていた。監督生はレオナが起きるまで窓の外を見ている

空が青い。風が吹いて、白い雲が流れていく。どの世界でも変わらない。同じことだ。

別に懐かしくも寂しくもならなかった。感傷に浸るでもなく、ただ退屈しのぎに空を見ていた

レオナはすっと目を開ける。窓の外を見つめる監督生の背中が、光を受けてぼやけて見える

レオナには、その背中が今にも消えてしまいそうに見えた。

体を起こし、レオナは背中に声をかけ

「おい、こっち来い。」

と監督生を呼ぶ。監督生はゆっくり振り返った

レオナは早く来いと言って、欠伸をしてたてがみを掻く

いつもと変わらぬ仕草だが、監督生の目には彼が今にも泣いてしまいそうな表情をしているように見えた

「どうしたんですか、レオナさん」

怖い夢でもみたんですか?と監督生は笑ってレオナの元へ歩み寄る

目の前まで歩いてきた監督生の腕を掴んで引き寄せ、レオナはぎゅっと抱きしめる

「ヴィルの野郎に、俺は優しくねぇって言われた…」

レオナは監督生の頭を自分の胸に押し付けて、表情を見せないようにする

監督生は何も抵抗せず、レオナの心臓の音を聞く

とく、とく、と一定のリズムで鼓動が聞こえる

「お前を元の世界へ帰してやるのが優しさだとな。」

監督生は目を閉じ、ただレオナの心臓の音と、響く声を聞いていた

「お前のこと、何も知らねぇくせにな…。」

レオナは監督生の髪に顔をうずめる

「そうですね。前の世界に帰りたいなんて、思ったことないのに」

監督生はいつからか「元の世界」では無く「前の世界」と言うようになっていた

もとより、恵まれた環境にいた訳では無い監督生にとってこの世界は、レオナとの出会いは救いだった

「レオナさんの隣で一生を終える。それが許されるなら、それがいい。」

帰りたくなんてない。と監督生はレオナの背中に手を回す

レオナは抱きしめる力を弛め、監督生と視線を合わせる

ゆっくり、確かめるように口を開く

「帰らない理由が欲しいと言ったのは誰だ?」

レオナが問うと、監督生はレオナの瞳を覗き込んで少し笑う

「私です。」

「閉じ込めてくれる檻が欲しいと言ったのは?」

「私です。」

「俺と連れ添いたいと言ったのは?」

「全部、全部私ですよ。レオナさん」

レオナはまたぎゅっと監督生を抱き締めた。

「お前のこと、何も知らねぇくせに」

どいつもこいつも、好き勝手言いやがる。

泣いてしまいそうな声のレオナを抱き返して、監督生は笑う

「レオナさんは優しいな。全部全部、私が望んだことなのに」

レオナは監督生をベッドに沈め、押し付ける

「……なぁ、」

レオナが名を呼ぶ。監督生は

「レオナさんの好きにして」

と言って目を閉じる

レオナは監督生の首に噛み付いた。しっかりと跡が付くように。誰のものか、一目見ればわかるように

「お前のことをわかってやれるのは、」

この世界で俺だけだ



☆☆☆
どいつもこいつも、こいつが元の世界に帰れれば幸せになれると思ってやがる
自分を必要としない「帰る場所」が
自分の居場所のない「家」が
一体どれだけ残酷か
誰もそれを知らないくせに

「お前の居場所は俺だけだ」


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