ウツボは愛の皿の上

課題を机いっぱい広げるハルトの横で、さっさと自分の分を終わらせたフロイドが大きく伸びをする

「ジェイドってば、最近キノコばっか食っててさーマジ気持ちわりぃの。」

「あはは、フロイドはキノコ嫌いでしたっけ」

チョー嫌い。土くせぇし。あんなもん食う意味わかんね。とフロイドは顔を顰めつつハルトの課題をとんとんと指さす

「ここ違ぇ。」

「ホントだ。ありがと。」

ハルトは指摘された部分を直し、むくれているフロイドの顔を見て笑う

「じゃあ、フロイドよりジェイドの方が美味しいかもしれませんね」

「は?」

フロイドは口を開けてハルトを見た。少し怒ったような怖い表情になっている

適当に言っただけなのに予想外な反応をもらい、ハルトは焦る

「いや、冗談ですよ?!」

「知ってるけど…。いや、なんで俺よりジェイドの方が美味しくなんの?まさかキノコ?」

うげっと顔を歪めるフロイドに、ハルトは少し笑う。どれだけキノコが嫌いなんだか

「肉食動物より草食動物の方が肉が臭くなくて美味しいんですって。肉食動物も、出来るだけ穀物とか食べさせると美味しくなるとか」

僕の住んでるとこでは、魚に果物を混ぜた餌をあげてましたよ。とハルトが続ける

「げぇー…」

フロイドは舌を出して、嫌そうな顔をする

「まぁ、僕そもそも人魚は食べませんよ。たぶん」

ケラケラ笑って、ハルトはまた課題に取り掛かる

フロイドはしばらくの間、ハルトの横顔と

「………。」

唇を眺めていた



「フロイド、どこか悪いんですか?」

「野菜ばかり食べるなんて、お前らしくない」

夕食の際、同寮のジェイドとアズールがフロイドに声をかける

いつもは魚介類や肉を多めに食すのに、いま皿の上に乗っているのは葉物と野菜ばかりだ。

まさか体型に気を使うタイプでもあるまい、2人は真っ先に体調不良を疑った

フロイドは皿の上のものをフォークでプスリと刺して、不味そうに咀嚼する

「別にぃ。ただ、ジェイドより美味しくなろうと思って。」

「はぁ?」

「どういう意味ですか?」

「…そのまんまの意味。」

ジェイドとアズールは顔を見合わせる。気紛れで突拍子のないことを始めるのはいつもの事だが、今回はさっぱり意味がわからない

それ以上答える気はないらしく、フロイドは不機嫌そうな顔でトマトにフォークを突き立てた



「ハルトさん、フロイドに何か言いました?」

モストロラウンジに出勤するなりアズール尋ねられ、ハルトは首を傾げる

「美味しくなると言って、昨日から野菜しか口にしないんです」

昨日はあなたと一緒に居たようですし、なにかご存知かと思いまして。

「あー…思い至ること、ありますねぇ」

ハルトが少し困った表情をすると、アズールははぁとため息を吐いた

「別に何を食べようと本人の勝手ですが、機嫌が悪くて困っているのです。どうにかして下さい」

「どうにかって…」

「今日のキッチンはあなたとフロイドがメインですよ。機嫌を治さないと困るのはあなたです」

アズールは意地悪く口元を歪めて笑う。ハルトは困ったなーとため息を吐いてキッチンに入った

フロイドは既に下拵えを始めている

「フロイド?」

「あ、ハルト」

「フロイド、食べられる予定があるんですか?」

「別にぃ。」

「……?」

フロイドはさほど機嫌悪そうには見えなかった。多少いつもより素っ気ない気はしたが

ハルトは少し首を捻って、フロイドの様子を見る

たんたんたんと響く一定の包丁のリズムが心地よい

「…フロイド。僕、今日の賄い担当なんです。食べてくれます?」

僕ね、僕の作った料理を美味しいねって食べてくれるフロイドが好き。とハルトは微笑む

フロイドは手を止めて、ハルトを見た

しばらく考え事をするかのように動きを止め、包丁をポイッと放り出す

「……野菜食うのやーめた。飽きたし。腹減ったし。何作ってくれるー?」

急にニコニコ笑ったフロイドに、ハルトもつられるように笑う

何を作りましょうかね。なんて話しつつ、そう言えばと急に思い出したかのように付け足す

「フロイド、誰に食べられるつもりだったんですか?」

「…ハルトになら、俺の身体、食べさせてもいいよぉ」

フロイドは笑っていた。先程よりも甘く、優しく

「俺が死んだら、美味しく食べてね、ハルト」

「…きっと人魚のフロイドの方が長生きですよ」

「ハルトが死にそうになったらぁ、ジェイドに料理してもらって食わしてあげる。」

そしたら、天国まで一緒に行けちゃうねぇ

フロイドはケラケラ笑う。ハルトは少し驚いたような困った様な顔をしてから

「ふふふ、変なこと言いますよね、フロイド。まるで告白みたいな」

と少し照れたようにハルトは口元に手を当てて笑った

フロイドは何故か、何も言えなかった。胸が締め付けられるような、妙な感覚がする

いつまでたっても何も言わないフロイドを見上げ、ハルトは首を傾げる

「………フロイド?」

「……ハルトのばーか。」

「え?なんで?」

あぁ俺、ハルトが好きなのか。だから、ひとつになりたくなったんだ。

フロイドは初めてこの妙な感覚を自覚した。不思議そうに見上げているハルトの首に腕を回す

「あー、腹減った。早くなんか作って」

フロイドは大きく欠伸して、ハルトの口元を眺めて笑った

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