熱と幼子

「子分ー、ホントに1人で大丈夫なんだゾ?」

「うん、寝てるから気にしないで。ノートよろしく」

「ちゃんと大人しくしてるんだゾ」

グリムが心配しつつもオンボロ寮から出ていく

監督生はひらりと手を振って

「いってらっしゃい」

と少し寂しそうにその姿を見送った



監督生は1人で自室のベッドで寝ていた。ようやく環境に慣れてきて気が緩んだのか、熱を出してしまったのだ

ふと監督生が目を覚ます

喉が渇いたようで、グリムが枕元に置いていってくれた水に手を伸ばす

「あ」

熱のせいか身体が言うことを聞かず、コップは水をぶちまけて床を転がっていく

「……うぅ…」

監督生はパタッと手を力なくおろし、ポロポロと泣き始める

最近はグリムと常に一緒にいたせいか、この部屋が静かなことが無性に寂しく不安だった

思い通りに動かない身体と熱のせいか、孤独がより大きく感じられる。

まるでコップにすら拒絶されたような気がして、監督生は全てが嫌になってきた

怖い。寂しい。悲しい。辛い。苦しい。色々な感情が纏まることなく頭の中を巡り、溢れ始める

「…うわぁぁぁん」

「何泣いてんだ」

枕に顔を埋めて声を上げて泣き始めた監督生の頭に、ぽんと何かが乗せられる

顔を上げると、ジャックが呆れた様な表情をして屈んで、監督生の頭に手を置いていた

「ほら、飲め」

監督生の背中に手を回し座らせて、ジャックはスポーツドリンクを渡す

「ジャック…なんでここに?」

「いいから飲め。」

手を添えて介助してやりつつ、ジャックは呆れたように笑う

監督生はごくごくと喉を鳴らしあっという間にコップを空にする。余程喉が渇いていたのだろう

「今は昼休みだ。エースとデュースがグリムの面倒を見ている。放課後にはアイツらが来るらしいぞ」

「そっか…」

監督生は涙を拭く。熱のせいもあってか、目はまだ潤んでいる

「何泣いてたんだ」

「何ってわけじゃないけど…水がこぼれて、飲めなくて、そしたらなんか、全部イヤになった」

「そうか」

ジャックは監督生の頭を撫でる。気まずそうに目を逸らして布団を引き寄せる仕草が、幼い子供のように感じさせる

弟や妹も、熱を出すといつもより我儘になるというか、甘えたがる仕草をしたもんだとジャックは少し目元を緩める

手に持った袋からリンゴをとりだし

「エペルからだ。心配してたぞ」

キッチン借りるぞとジャックが離れようとする

監督生はジャックの制服をギュッと掴んだ

「…どこにも行きゃしねぇーよ。どうせ何も食ってないんだろ。」

すぐ戻るから待ってろ。と幼い兄弟に言い聞かせるようにして、ジャックはまた頭を撫でる

「…うん」

監督生は手を離した。



リンゴを食べると、監督生はまたすぐに寝てしまった。

ジャックはしばらくベッドに腰掛けて寝顔を見ていた。

最初のような不安そうな表情も泣き顔も引っ込んで、今は安心したように穏やかな顔をしている

ジャックには年の離れた妹がいる。どうも監督生を見ていると、その妹が重なってみえる

「ったく。世話のやける…」

そろそろ行かなければ、午後からの授業に間に合わなくなる。

ジャックはベッドから立ち上がろうとし、ピタリと動きを止める

「………はぁ。」

大きくため息をついて、スマホを取り出して座り直した

連絡した先はエペルのスマホだ

「すまん、昼からの授業に出れそうもねぇ。悪いが、先生に伝えてもらえないか?」

ジャックは監督生を見下ろす。

監督生の手は、ジャックのしっぽをギュッと掴んで離さない

「本当に、世話のやけるヤツだ…」

ジャックはすやすや眠る監督生の腹の辺りをポンポンと叩いて、困ったように笑った



☆☆☆
グリム「戻ったゾー!子分、よく寝たか?」
エース「よぉジャック。監督生どうだ?」
デュース「差し入れにプリンと、食えそうなもん幾つか買ってきたぞ。」
エペル「リンゴ食べれた?ジュースも持ってきたよ」
ジャック「…まだ寝てるから静かにしてろ」


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