骨まで愛して

ハルトはラギーが食べるのを見るのが好きだ

硬い肉にかぶり付き無理やり引きちぎって、大きな塊も少しずつ咀嚼し口の中いっぱいにおさめていく

口内に全てが収まるとぐちゃぐちゃと音を立てながら噛み、一気に飲み込む

ゴクリと大きく喉が動く

ペロリと指先と唇を舐めとる際に、ちらりと鋭い犬歯が覗く

そのうち肉を腹に収め終わると、骨に口を付ける

奥歯に挟み込んで、ガリガリバリバリと音を立てながら噛み砕いて細かくし、嚥下していく

皿の上には、何一つ残らない

「そんな見つめられると食いにくいんスけど」

ラギーは呆れたように半目でハルトにそう言う

「あぁ、ごめん。つい、ね」

「あんま見てると金取るっスよ」

「それは勘弁」

ハルトはケラケラ笑って、冷めつつある自身の食事に手をつける

ラギーはハルトの食べ方を見ていると、あんな小さな口でよく腹一杯食えるなぁと不思議になってしまう

クルクルとフォークにパスタを絡め、1口パクリと食べてゆっくり咀嚼する

「ハルト君は、俺が食べるの見るの好きっスよね」

「ん?うん、好き。なんか、興奮する」

「げぇ」

「あ、違うよ。性的興奮じゃなくて」

なんて言ったらいいのかな…とハルトは困った様に笑いつつパスタをつつく

「死んだら、俺も骨まで食われたいって、そう思うのよ」

「はぁ?」

ラギーは顔を顰める。なんか、気持ち悪いことを言われたような気がしたのだが

ラギーの顔を見つつ、またパスタを1口

「俺ね、輪廻とか転生とか魂とかあんま信じてねぇの。だから俺が死んだ時、誰かの血肉として受け継がれたら嬉しいなって」

そんな感じ。とハルトは唇についたパスタのソースを舐める

ラギーはなんとなくハルトの言いたいことがわかる気がした。

自身の育った場所で、何も残さず誰の役に立つこともなく死んでいった命をいくつか見てきた

自分がいたという「何か」を誰かに持っていて欲しい。そんな不安のような期待のような気持ち

「まぁ、出来るならラギーに食われたいね。」

ハルトは少し遠くを見て小さな声でそう言った。その横顔が、何故か今にも餓死しそうな子供のように見える

ラギーはちまちまとパスタを巻きとるハルトの手元を眺めていたが、不意にフォークを奪い取る

皿に残ったパスタを全部絡めとって、自分の口に入れた

「あー、俺のパスタ…」

ラギーは柔らかい冷えきったそれを咀嚼し、ハルトの肩を掴んで引き寄せる。

「ラギー、一体何を……むぐっ?!」

口移しで無理やり咀嚼してやったものを食わせる。

ハルトは咄嗟のことに目を見開くだけで、口内に送り込まれたパスタだったものを抵抗もせず飲み込む

口を離し、自分の唇の端をペロリと舐めとって、ハルトの唇を親指で拭ってやる

「ん…げほっ…ごほっ」

「俺は死んでも食われるなんてごめんっス」

でも

「ハルトが先に俺より死んだら勿体ないし、腐る前にちゃんと食ってやるっスよ」

ラギーは笑う

「あと、あんま変なこと言うと、今から味見しちゃうスよ」

ハルトは噎せながらラギーを見る

「ちゃんといっぱい食べて、食べ応えがある様にしといて欲しいス」

ラギーはヒラリと手を振って、空になった皿を持って片付けに行ってしまった

残されたハルトはその背中をしばらく見送って、それから笑った

「しっかり、食わなきゃな」



☆☆☆
たまにハルトは今にも死にそうな顔をする
それが何かは知らないが
死ぬなら出来るだけ長生きしてから死んで欲しい

そしたら、ちゃんと腹に収めて一緒にいてやるから


☆☆☆
生に執着する君と、生への執着がない君

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