魔法の料理

フロイドはくわっと大きく欠伸をした

「やっと、午前の授業終わった。腹減ったー」

空腹を満たす為に、他の小魚達に紛れて食堂に向かう

「はぁ?!お前そんだけしか食わねぇの?俺ら育ち盛りだぞ!!」

「監督生、どこか体悪いのか?」

「こいつ、昨日もその前もほとんど食ってねぇんだぞ!」

賑やかしい声を拾い、目をそちらにやる。何かと愉快な厄介事を持ち込む一年達が騒いでいる

監督生は

「お腹、空かないんだよね」

と笑っていた。皿には、小さなパンが1つあるだけだ

「小エビちゃん?」

フロイドは監督生の笑顔が気になり、足を向ける

大股で近付き、エースとデュースの2人に挟まれている監督生の前に立つ。監督生は急に現れたフロイドに驚いたようだった

「フロイド、先輩?」

「小エビちゃん、気持ち悪い」

フロイドは無表情でそう言い放った。何かが気に入らなかったようで、監督生を見下ろす目は冷たい

監督生が怯えて、1歩下がる

「……あはっ!」

フロイドは急に笑顔になった

「小エビちゃん、放課後、モストロラウンジにおいで。」

絶対来てね。とフロイドは監督生の肩に手を置く

「カニちゃんとサバちゃんとアザラシちゃんはお留守番しててね。小エビちゃん…ちゃんと来いよ?」

圧を感じる笑顔を近付けて、フロイドは念を押すようにそう言った。



放課後、モストロラウンジに監督生は約束通りに一人で訪れた

「おや、監督生さん。」

「こんにちは、ジェイド先輩。その、フロイド先輩に呼ばれたんですけど」

「あぁ、フロイドなら張り切ってキッチンに立っていますよ。随分機嫌がいいと思ったら、」

あなたのためだったのですね。とクスクス笑って、監督生を席に案内する

「今日は他のお客さんはいないんですか?」

「新メニュー開発の為にアズールが休みにしたんですよ」

「あー、小エビちゃん、待ってたよー」

フロイドは、機嫌良さそうにフライ返しを片手に奥から現れた。

「もう少し待ってね、今できるから」

とニコニコ笑う

「待って下さい、お腹は空いてなくって…」

フロイドは話しを聞かずに、すぐにまたキッチンに戻ってしまった

監督生は困った様にちょこんと椅子に座る

「フロイド先輩、何がしたいんでしょうか」

「さぁ?それは僕にもわかりかねます。飲み物でもお持ちしますね」

ジェイドはごゆっくりと言い残し、監督生から離れていく

奥からいい匂いが漂ってくる。

「お待たせー小エビちゃん!」

フロイドはニコニコ笑って、監督生の前に皿を置く

「海鮮リゾット、召し上がれー」

「その、フロイド先輩」

監督生は困った様にフロイドを見上げ、料理に手を付けようとしなかった

「どうしたの、小エビちゃん。」

「お腹空いてないんです。」

フロイドは監督生をじっと見下ろす

「よっと。」

何を思ったのか、フロイドは監督生の隣にどかりと腰を下ろした。

そして、監督生を抱き寄せる

「フロイド先輩」

無理やり指を入れて口を開かせ、もう片手でスプーンを掴む

「やめて、フロイド先輩、やめて!」

「食べて、小エビちゃん」

「イヤだ!やめて!やめて!!!イヤだ!!!」

監督生は、駄々をこねる子供のように暴れようとし、叫ぶように拒否をする

飲み物を持ってきたジェイドは片割れが無理やり監督生にご飯を食べさせようとしているの止めようとした

しかし、フロイドの表情を見て迷う

フロイドは怒ってもなかったし、笑ってもなかった。ただ真面目な顔をして、なんなら少し優しい表情でスプーンを口に入れる

監督生はピタリと抵抗をやめた

「味がある…美味しい…」

ポロポロと涙を流し、咀嚼し、飲み込む

「はい。どーぞ」

フロイドがスプーンを渡すと、監督生はかき込むようにリゾットを食べ始めた

口から溢れんばかりに詰め込んで、飲み込むのも焦れったいとばかり勢いよくスプーンを動かす

ジェイドと騒ぎを聞きつけてやってきたアズールは呆気に取られる

泣きながらご飯にがっつく監督生と、それを穏やかに笑ってみているフロイドをみて

「一体、なんなんです?」

とアズールが呟き

「わかりません…」

とジェイドは答えた。



「明日も作ってあげるから、ちゃんとおいでね、小エビちゃん」

フロイドがヘラヘラ笑ってヒラリと手を振る。監督生は何度もアタマを下げて帰っていった

「それで、なんだったんですか?」

アズールがそう問うと、フロイドは

「小エビちゃんね、しばらく何も食べてなかったんだって」

と笑った

「小エビちゃん、すごいお腹すいてたのに、食べれなかったみたい」

「…どうしてですか?」

ジェイドが不思議そうに首を傾げる

「上手く言えないけど、手料理が食べたかったんじゃない?」

「手料理?」

「手料理ってさ、ある程度愛情がなきゃ作って貰えないじゃん?」

「それが今回のとなんの関係が…」

アズールが困惑して尋ねるが、フロイドは無表情になる

「よくわかんねぇけど、俺が食べさしてあげなきゃ小エビちゃんが死んじゃう気がしたの」

そんだけ。とフロイドはキッチンに戻ってしまった

ジェイドとアズールはしばらく顔を見合わせていたが、フロイドの気まぐれはいつもの事なので聞き出すのを諦めてそれぞれ戻っていった



☆☆☆
フロイドの気まぐれな餌付けは1週間ほど続いた

「小エビちゃん、もう味、するようになった?」

「はい。」

「なら、もう俺のご飯はいらないね。」

「…そうですね。ありがとうございました。でも、フロイド先輩のご飯が食べられなくなるのは残念です」

「また必要になったら作ったげる」

「ありがとうございます。」

監督生は眉を下げて笑った。フロイドは監督生の頭をくしゃりと撫でて、額に口付けた




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