起きないでアリス
「エース!デュース!監督生が大変なんだぞ!」
慌ててハーツラビュル寮に飛び込んでくるなりそう言ったグリムに、エースとデュースは顔を見合わせる
2人はグリムに急かされ、オンボロ寮へと駆け付けた
「いつからこの状態なわけ?」
エースは監督生のベッドに腰掛ける
シーツが丸く膨らんで震えている。デュースはどうしていいのかわからず、ベッドの傍で立ちつくす
「オンボロ寮に戻ってきてから、ずっとこの状態なんだぞ…」
「ずっとねぇ…」
エースはシーツの膨らみを軽く叩く
「監督生、その、」
デュースがなにか言おうとしたが、エースの視線に気が付き口を閉じる。こういうことは、エースの方がうまくやれる。不器用な自分が下手に話さない方がいいのだ
「デュースも突っ立ってねーでそこ座れよ!」
エースは明るく笑いながらそう言った
身体を丸めて泣いているらしい監督生を挟むように2人は座って
「今日のデュースヤバかったな!バスカル先生に箒で思いっきりぶつかってさぁ」
「な!お前だって箒から落ちてきたじゃないか!」
といつもの様に話し始める
「お前ら2人とも下手くそだったんだぞ!」
「お前は監督生と見てただけじゃねーか。」
「グリムはトレイン先生に怒られていたな」
「んなっ!?あれは眠りの魔法を使うアイツが悪いんだぞ!」
馬鹿を言い合って、笑って、監督生を時折ポンポンと撫でたりしながら、楽しそうに会話を続ける。
いつの間にかシーツの中からは穏やかな寝息が聞こえ始めていた。エース達は誰からでもなく口を閉じた
寝息だけがすぅすぅと聞こえる。穏やかな寝息に、エースは少し救われた様な気がした。不安を口にせず一人で泣いていた監督生は、怖い夢を見ずにすんでいるのだと。
それと同時に、少しモヤモヤとした。一人で涙が止まらなくなるほどになる前に、何かしてやれることはなかったのかと
「監督生は、いつもこうして泣いているのか?グリム」
「たまに泣くけど、すぐ泣き止むんだぞ。」
デュースの問いに、少し気まずそうにグリムが答える。
「ホントは、黙ってる約束だったんだぞ…お前らが心配するからって」
「ふーん」
エースは肘をついて口を尖らせる
「心配くらい、させてくれたっていいじゃないか」
何も言わないエースの代わりに口を開く様に、デュースはそう言った
「そんなに頼りないか?監督生…」
泣きたい時はそばに居るし、必要なら守ってやる
助けが欲しいなら手を伸ばすし、一緒に笑って楽しんで友達として隣にいたい
望むなら、帰らなくていい為の理由なんていくつでも用意する。自分達がその理由になる。
エースは何も言わなかった。けど、きっと、グリムと、デュースと同じ気持ちなんだろうなと思った。
「帰りたいなんて、言うなよ監督生」
デュースは泣きそうな声でそう言って、頭を抱え込むようにして身を丸める
エースは
「全部諦めちまえば、楽なのにな。」
とポツリと呟いた
きっと目を覚ました頃、監督生はいつもの様に全てを隠して笑うのだろう
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