鏡よ鏡

ポムフィオーレ寮の談話室にてハルトはある人物が通りかかるのを待っていた

「あ、ヴィル寮長!今日も可愛いですね!」

「私に可愛いなんて言うのはあんたくらいよ、ハルト」

ヴィルは呆れた様にそう言って

「まぁ、当然だけど」

と髪を靡かせ、すっと歩き去っていく

「ファンサ貰った…今日も頑張れる…」

ハルトにとって、ヴィルに挨拶をすることが朝のルーティンになっている

「ヴィルさんって、美人だとは思うけど、可愛いかな…?」

そのルーティンを不思議そうに眺めていたエペルがニコニコしているハルトに尋ねる

「え?可愛いじゃん!」

「え、どこが?」

「え、わからない?」

ハルトは心底不思議そうにエペルを見返す

「私も聞かせて欲しいね!」

「うわっ、ルーク先輩」

背後にいつの間にか立っていたルークがハルトの肩に手を置く

「ルーク先輩も可愛くないと思います?」

「可愛らしいところもあるけど、ヴィルの溢れんばかりの美しさには適わない様に私には感じるんだ」

「そうですか?あの人って、毎日ニコニコでお気に入りのワンピースを着て踊ってる女の子みたいじゃないですか」

エペルとルークが並んで首を傾げると、ハルトも困った様に首を傾げた



廊下を歩いていた際、後ろからカツカツと聞こえたヒールの音にハルトは目を輝かせて振り返る

「ヴィル寮長!」

ヴィルはハルトを見つけると、一直線に早足で向かって行く

「ヴィル寮長はかわ…ぐっ!」

ヴィルはいつものように話しかけようとしたハルトの胸倉を掴み、壁に叩きつけそのまま押し付ける

近くにいた生徒が驚いてヴィル達の方を見るが、本人達は互いしかいないように見つめあっていた

ハルトは壁に押し付けられた衝撃と痛みに驚いたが、それよりヴィルの表情への驚きが勝った

焦げ付くような、憔悴したような、焦燥を抱いたような、怒りを隠したような…色々混ぜて滴る毒のような、暗く澱んだ瞳

ヴィルはハルトの顎を掴み、至近距離で、まるで口付けるように顔を寄せる

「こたえなさい、ハルト」

ヴィルは静かに静かに問う

「この世で1番美しいのは誰?」

「ヴィル寮長です」

ハルトは、ヴィルの目を真っ直ぐに見て、迷いなくそう答えた

「この世で1番綺麗なのは誰?」

「ヴィル寮長です」

「じゃあ、」

ヴィルはハルトをじっと見下ろす。

「この世で1番可愛いのは誰?」

「もちろん、ヴィル寮長です」

ハルトは迷いなく、偽りなく、本心のまま、ヴィルの瞳を覗き込んでそう笑った

「……当然よ。」

ヴィルはハルトの顎を放し、興味など失ったとでも言うよに足早に去っていく

すっと背筋を伸ばし、真っ直ぐ線が引かれたようにブレずに美しく歩いて離れていく背中をキョトンとして見つめていたハルトだが

「やっぱり、ヴィル寮長は可愛い人だ。」

とニッコリ目を細めて笑った。



☆☆☆
あの人って、自分の努力を1番知ってるのに、1番認めてあげられない人なんだよ。

あの人って、誰に褒められても、自分で自分を心から褒めてあげられない人なんだよ。

「可愛い人だ。」

愛らしく、可哀想で…誰がなんと言おうと、自分がなんと思おうと

「ヴィル寮長は、可愛い人だ。」

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