駆け抜ける青春!
今日最後の授業が終わると、ハルトは隣を歩くラギーになぁ。と声をかける
「ラギー、鬼ごっこしよ。」
「えぇー…」
「勝者には晩飯2000マドル以内で奢りでどうだ」
「のったっス!」
ハルトとラギーはハイエナだ。普通の学園生活では体力を持て余すことがある。
大抵誘うのはハルトからだが、全力で駆け巡りたい時はこうして妙な遊びを始める
「鬼はどっち?」
「俺!今日はそんな気分ス。時間は?」
「んー、2時間。あとはいつも通り、魔法禁止で場所制限なし、教室とか部屋に入るのは禁止」
「OK !10秒でいいっスか?」
「余裕余裕!」
ラギーが大きな声で10、9、8と数え始めると、ハルトは勢い良く駆け出す。
廊下の窓から飛び出して地面に降り立つと、そのままのスピードでラギーからグングン離れていく
ラギーはハルトを目で追いながら足首を回し、背中を伸ばす
「3、2、1、0!!」
ラギーも窓から躊躇いなく飛び降り、ハルトを追い始めた
ハルトはまだ生徒でごった返しているだろう校内は避け、とりあえず購買部の方へ向かう
あの辺には小さな森がある
単純な運動能力だけならハルトよりラギーの方が勝っているし、直線で引き離すのは不可能だ
しかし、障害物が多い場所を利用し小回りを活かし身を隠せば時間と距離を稼げる
身を低くし時折4足走行も混じえ、ハルトは息を乱さずまばらな生徒の間を縫って走る
「今日は調子良いし、晩飯は俺のもんだね…と!?止まって止まって!!!」
図書館の横を駆け抜け、スピードに乗っているハルトは慌てて叫ぶ
何か買い出しをしていたのか、買い物袋を手にしたジェイドとフロイドが足を止めると、そのすぐ目の前をハイエナが弾丸のように飛んでいった
先にあった木に垂直に、重力などないように着地してハルトは笑った
木を蹴って今度こそ地面にきちんと着地したハルトは驚いているジェイドと笑っているフロイドに
「おっとと、失礼」
とよろめきながら謝った
「何しているんですか、ハルトさん」
「ラギーと鬼ごっこしてるんです。晩飯がかかってるんで、失礼しますね!」
「何あれ、ちょー楽しそうじゃん!」
ハルトは先程同じように走り出し消えていく。
「あ、コバンザメちゃん来た」
「ジェイドくんとフロイドくんじゃないっスか。ハルトどっち行ったか知らないスか?」
「あちらですよ」
「どうも!」
少し遅れて来たラギーを見送り、ジェイドはやれやれと首を振る
「さぁ、戻りましょう、フロイド。…フロイド?」
先程までフロイドがいたはずの場所には、買い物袋が置かれている
「…おやおや」
「待て待て待てなんか増えてね?!なんか増えてね?!」
ハルトは購買部の方ではなく、メインストリートを駆け抜けていた
小回りを利かせて逃げ切る前に追い付いてきた人物が怖くて咄嗟に直線コースを選んでしまったのだ
思わず叫ぶハルトの後ろにはラギー…ではなく
「あははー!待て待てハルトー!!」
「こわい!フロイドこわい!てかなんでハイエナについて来れんのこの人?!」
ラギーはフロイドの少し後ろを走りながら笑っている
「これ、フロイド君に捕まった場合、晩飯どうなるんスか!!」
「知るか!!」
メインストリートを走り続ければ正門にぶち当たり逃げ場をなくしてしまう。ハルトはとりあえず脇道に逸れて鏡舎へ向かう
「あははは!やっべぇハルト速いねぇ!!」
パルクールを得意としているフロイドは、ハルトの突然の方向転換も軽い障害物もものともせず、全く距離をあけられることなく着いていく
ドタドタと背後に迫る足音を嫌でも拾ってしまい、ハルトは半泣きで足を動かす。捕まったら死を覚悟するレベルで恐怖を感じている。
獣の本能で、自分より大きなものに追われるのはシンプルに命の危機を感じるのだ
「笑いながらくんな!!こわい!!てか鬼2人っておかしくね?!ラギー、フロイド捕まえろよ!!」
「嫌っス!!」
「シンプル!!」
ハルトは全力で垣根を飛び越え地面を蹴り、必死に逃げていたが、先に見えた人物に急ブレーキをかけるように止まった
ラギーとフロイドも急に止まったハルトより先の人物を見つめて表情を歪め、ハルトの隣で止まる。
「トレビアン!!人魚にハイエナ達…今日の獲物は実にボーテ!私も混ぜてくれないかい?」
「「「げ!!!」」」
スッと弓を構えた狩人の姿を目にし、3人は踵を返して駆け出した
「ハルトが鬼ごっこなんて始めるからこうなったんスよ!?」
「ルーク先輩が何処にいるかなんて知らねーし!?あの人めっちゃ興奮してんじゃん!!」
「っぶね!!!ウミネコくん、ガチで撃ってきてんじゃん?!」
フロイドの脇下を矢が掠めて飛んで行った
後ろから
「トレビアン!」
と称賛の声が聞こえる。ビンッ!と弾かれた弦の音も。
「っと、ハルト!」
フロイドに頭を押さえられ、バランスを崩しかけるハルトの頭上ギリギリをまた矢が通過していく
「あ、ありがとうフロイド!!あの人ヘッドショット狙いやがったぞ!散れ散れ!!」
3人はそれぞれ全力で駆け抜ける
狩りはまだ始まったばかり
☆☆☆
晩ご飯は散々楽しんだルーク先輩が奢ってくれました
「今日は実に楽しめたよ!風の精霊のように駆け巡る姿、躍動ししなる筋肉、矢を躱す軽やかさ…何をとってもトレビアン!!ボーテ!」
☆☆☆
途中で巻き込まれた被害者
「レオナさん!!助けて!」
「あぁ?うるせぇな………?!その変態を連れてくんな!!!」
「激レアな全力疾走のレオナさんだ!!」
「ジャック!ヘルプ!」
「あぁ?ハルト先輩?!あんた何して……うわ!矢が飛んでくる!?」
「カリムどいて!!ジャミル!ガード!!」
シュン!!
「うわっ?!矢?」
「刺客か?!」
「すまない、私だ!」
「ルーク?!」「ルーク先輩?!」
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