先生褒めて!

木々が生い茂る森の中、ハルトは目を閉じて匂いを嗅ぐ

「ルーク先輩、います。鹿ですね。あっちの方向」

すっと指さした先は獣道すらなく、素人目にはただ木があるだけだ

「流石だね、ハルト君。」

「わりと近いですね。行きますか?」

「ウィ。あそこの開けたところで待っているよ」

「追い込みますね」

ハルトが音もなく走り出す姿を見届け、ルークは

「んー、実にマーベラス」

と呟いた

週末、2人は狩りに出掛けることが多い。誘うのは主にハルトで、ルークはそれに付き合ってやっている形だ

しかし、ルークも狩りは好きだし、悪い気はしなかった

「んー、相変わらず美しいね。思わず狩りたくなってしまう」

ルークはハルトの狩りを見るのが嫌いではない。

躍動する野生に近い姿、力強く地面を蹴る足とは対照的にしなやかに伸びる腕

木漏れ日に輝く艶やかな毛並み、低く駆け抜ける風のような身軽さ

普段の穏やかな顔から想像のつかないような剥き出しにされた本能と牙

そして何より

「生命力が溢れかえり宝石のように輝く瞳!まさにボーテ!!」

木々の隙間を駆け抜ける姿を目視し、ルークは興奮する

しかし頭の真は冷静に、鹿が飛び出して来るであろうところに狙いをつけ、弓を構える

キリキリと弦が張り詰められていく

事は一瞬であった

猟犬に追われ飛び出した鹿の首を、放たれた矢が撃ち抜く

鹿の後から飛び出してきたハルトは、ちぎれんばかりにしっぽを振りルークに駆け寄る。山の中を疾走したわりに、息は乱れていないようだ

「トレビアンです!さすがルーク先輩!」

「そちらこそ、完璧な誘導だったよ!トレビアン!!」

2人は互いに称賛する。いつもの光景だ。

ルークは猟犬の頭をポンポン撫でてから、獲物の処理に取り掛かった



「今回は随分大物だな。ハルト」

クルーウェルの部屋へ訪れ大きな布袋を差し出したハルトは、フリフリと尻尾を振ってクルーウェルを見つめる

袋の中からは、茶褐色の毛皮が出てくる

「ルーク先輩と鹿を狩ったんです!受け取ってください!」

「大したもんだ!Goodboy!」

クルーウェルは耳を後ろに下げて撫でられるのを待っているハルトの期待通りに頭をガシガシと撫で回す

ハルトはちぎれんばかりに尾を振って喜ぶ。

ハルトが週末の度に狩りに出る理由…それはクルーウェルに毛皮を貢ぐ為だ

ハルトは犬の獣人だ。指導者として優秀なクルーウェルに惚れてから、本能で獲物を届け続けている

犬の扱いに慣れているクルーウェルに褒められる度に、さらに惚れ込んで貢ぐ獲物はどんどん大きくなっている

初めは兎や小鳥なんかを生きたまま捕まえて持って行っていたが

「ハルト、確かに毛皮は好きだが…」

と困った様な対応をされたため、ルークに頼んで処理をしてもらい毛皮のみを届ける様になった

クルーウェルとしても、相手が生徒であるとはいえ貢がれるのはいい気分だ

「ご褒美にブラッシングはどうだ?ハルト」

「はい!喜んで!」

「ブラシを取ってこい」

「はい!」

ハルトは目をキラキラとさせてブラシを手に取る

ソファに深々と座るクルーウェルにブラシを渡し、自身は足の間に収まるように床に腰を下ろす

教師として特定の生徒に肩入れしたり特別扱いはするつもりないが、基本の性格が犬であるハルトは失敗が続いたり叱られ続けるとやる気がなくなり授業にすら出てこなくなってしまう

褒めたり構ってやるのも一種のメンタルケアの様なものだろうと、クルーウェルもハルトの好きにさせてやっている

というのはまぁ半分ほど建前で、素直で自分を好いている生徒が気を引こうとしていたら可愛がってやりたくもなるだろう

パタパタと床にしっぽを跳ねさせながら自身を見上げるハルトの髪を梳かしてやりながら、クルーウェルは笑う

「仔犬は、本当に俺のことが好きだな」

「はい、先生のこと、大好きです」

「Goodboy」

クルーウェルはハルトの顎の下に手をやり上を向かせる

「そのままステイ」

自らの急所である喉を見せる姿勢で止められたが、ハルトは信頼しきっているようで一切の警戒を見せない

その様子を見て、クルーウェルは笑みを深める

ポケットから何か取り出し、微動打にしない犬の首にパチンと嵌める

「Goodboy、もういいぞ」

「これは?」

不思議そうに首元を触るハルトに見えるように手鏡を貸してやる

「わ!綺麗!」

「クルーウェル様がわざわざお前の為に作ってやったんだ。俺の許可無く外すなよ」

「はい!ありがとうございます!先生!」

ハルトの首には、黒と白を基調にしたチョーカーが付けられていた。赤い宝石がワンポイントにつけられている

ニコニコと喜んで耳としっぽを動かすハルトを撫でながら、クルーウェルは馬鹿な仔犬だと心の中で呟く

これはアクセサリーじゃなく首輪だ。他人にハルトが誰の所有物知らしめるための首輪。

飼い主は自分だというマーキングだ。他人にこの仔犬を譲る気も、自分の元から逃がす気も一切ない。この仔犬は生涯自分の隣にいるのだ。

「お前が卒業するのが楽しみだよ」

そうクルーウェルが呟くと、ハルトは何も言わず首を傾げただけだった。



☆☆☆
獲物はルーク先輩と半分こ
お肉はラギー君かモストロラウンジへ届けられるし、対応慣れしてるのでめっちゃ撫で回す

「お、ハルト君!今日はなんのお肉スか?」

「鹿肉です!」

「また、たくさんっスねー!いい子いい子!よーしよしよし!また獲物とれたら持ってくるんスよー」



「鶏肉いっぱいなんですけど、いりますか?」

「ありがとうございます、助かります。ジェイド、フロイド。褒めてあげてください」

「ホントにハルトさんはいい子ですね。よしよししてあげますよ。こちらへどうぞ」

「わんちゃんエラいじゃーん!ぎゅーってしてあげる!」





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