スキの数だけキライ
「つまんねー。俺と遊んでくれないハルトなんてきらーい」
それがフロイドの常套句だった
フロイドが告白して始まった関係だが、ハルトはフロイドがそう言うと笑って、何をしていても手を止める
「仕方ないなぁ、フロイドは」
「宿題飽きたー。運動しよーハルト」
「はいはい」
フロイドがハルトの手を引いて自分のやりたい事に連れていく。それが何時もの関係だった
ハルトはクラスメイトとの雑談を終え、少し離れて待っていたフロイドの元へと小走りで寄っていく
「お待たせ、フロイド。…フロイド?」
先程までニコニコしていたはずなのに、今こちらを見下ろす男は不機嫌そうに口の端をひん曲げている
「ハルトさー、俺以外の奴と楽しそうにし過ぎ」
「ただのクラスメイトだよ。明日の授業に用意するものを教えて貰ってただけ」
ふーん。とフロイドは聞いているのかいないのか、ハルトの手を引いて歩き出す
ハルトは少し困った顔をしてフロイドの背中を見つめる。彼の機嫌の波の変動の早さはいつもの事なのだが、最近どうもそれが過ぎるというか…
「俺」
フロイドは振り返らず言う
「そういうハルトきらーい」
フロイドがそう口にするのはいつもの事だった。フロイドが否定したことを、ハルトはいつもごめんね、もうしないからとやめてくれる。
フロイドは今回もハルトがそうしてくれると思っていた。なんの疑問も浮かばずに
ハルトは足を止めた
フロイドの手が離れる
「ハルト?」
フロイドが機嫌悪そうに振り返り、ハルトの様子を見て目を見開く
ハルトは泣いていた。
「俺、フロイド嫌い。嫌いっていう、フロイド嫌い。大っ嫌い!!」
ハルトはフロイドに背を向けて走り出す。
残されたフロイドは手を伸ばして、止めた。
ハルトから嫌いなんて初めて言われた。ショックで体が咄嗟に動かなかった。
フロイドはしばらく呆然と立ち尽くして
「待ってよ、ハルト」
と呟いた
「フロイド先輩が!フロイド先輩が、嫌いって言った…嫌いって言った!」
ハルトはべそべそと子供のように泣きじゃくって目の前の男に縋り付く
その背中をポンポンと軽く叩いてあやしてやりながら、ジェイドは困ったように笑う
「いつもの事ではないですか」
「いつものことだけど、やっぱり、フロイドからきらいって、言われたくない…」
「ならそう言えば良かったじゃないですか」
あなたがそれを許してきたから、フロイドも甘えていたんでしょう?
「だって…だって…」
ジェイドは諭すようにハルトの背中を叩き続ける。腕の中の生徒はまた声を上げて泣き始めてしまった
突然泣きながら自室に飛び込んできたハルトをあやし始めて何分たっただろうか。とジェイドはぼんやり考える。
双子の片割れの恋人である彼は、何故か自分を頼ってくることが多い。フロイドと顔が似ているから話しやすいのだろうか。
ジェイドは、ふと、扉の前に気配を感じる事に気がついた。恐らく、フロイドが聞き耳を立てているのだろう。
ジェイドは口元に手を当てて意地悪く笑う
「ハルトさん、フロイドなんかやめて、僕と付き合いませんか?」
「…ジェイド先輩と?」
「はい。僕はフロイドと違ってわがままは言いませんし、嫌いなんて絶対に口にしませんよ?顔だって同じでしょう?」
いかがです?なんて、わざとらしくハルトに尋ねる
ハルトは顔を上げてジェイドを見ていたが
「ジェイド先輩とフロイドは全然違います。似てないです。」
ハルトはキッパリとそう言いきった
「俺、フロイドが好きなんです。気まぐれで面倒くさくて、でもすごく楽しそうに俺を引っ張って連れてってくれる、フロイドが好きなんです」
フロイドは、きらいって、言ったけど…
バァン!!と勢いよくドアが開く
ビクッ!と驚いたハルトとは対照的に、ジェイドはおやおやと口にしただけだった
「ハルト、ごめんね。俺もう、きらいって言わないから、ジェイドのとこ行かないで」
「フロイド!」
自身の腕からするりと抜け出してフロイドの腕へと飛び込んで行ったハルトをみて、ジェイドはくすくす笑う
「おやフラれてしまいましたね。残念です」
フロイドはハルトを抱えて、ジェイドを睨む
「今度冗談でもハルトに手を出そうとしたら、ジェイドでも絞めるからね」
「覚悟しておきます」
ジェイドは軽く手を振って退室する2人を見送った
「ごめんね、ハルト。俺、こういう事うまく言えなくって…でも、ホントにもうキライって言わないから、いなくならないで。」
特に目的はないが、とりあえずジェイドから遠ざけるように歩きながらフロイドはそう言った。
ハルトはフロイドの首に回していた手に力を込める
「ハルト?」
「俺も、嫌いっていってごめんなさい。俺、フロイド好き。本当は、きらいって言われたらすごく辛かった。でも、フロイドがきらいって言うのは、フロイドが上手く言えない不安とかそういうの、なんかわかってたから」
これからは、もっとちゃんと2人で話そう
ハルトはフロイドの頭を撫でるように手を動かす
「俺、ハルトのそういうとこ好き。」
フロイドはハルトに頬を寄せて、ふにゃっと笑った
☆☆☆
「ジェイド、あれらは仲直りしましたか?」
「ええ、全く手の焼ける2人です。」
「…でもお前は少し残念なのでは?半分本気だっただろ」
「…さぁ、どうでしょうね?」
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