薔薇の迷路でさようなら

ハルトは方向音痴だった

どれ位方向音痴かといえば、何でもない日おめでとうのパーティーをしている間に薔薇の迷路に迷い込んでいる位には方向音痴だ

どこからか賑やかに騒ぐ声はするのだが、出口がどこなのかさっぱり分からない

「また寮長に怒られるよ…」

ハルトは半泣きで迷路をさまよう

何かと規律に厳しい寮なのだが、いつの間にかいなくなっていたり時間通りに行動できない事でこの生徒はすでに何度か注意を受けている

次は首を刎ねるからね!と言われたのは一昨日だったか…

「昨日クロッケーで2位だったから、今日は紅茶いれなきゃいけないのに…」

とりあえず歩き続けるハルトだったが

「おみゃー、さっきから反対にすすんどるよ」

と何も無い空間から声をかけられ足を止める

キョロキョロと怯えたように周りを見るが、誰もいない

「こっちだにゃー」

真後ろで声がし、恐る恐る振り返る。

「な、生首ー!!!」

ハルトは猫のように飛び上がり近くの薔薇の植木に身を隠す

空間にはニヤニヤと笑う生首が浮かんでいて、怯えた様子の生徒を見て

「元気だなぁ」

と呑気に呟く

「な、なな、なんなんですかアナタ…」

「俺?俺はアルチェーミ・アルチェーミエヴィチ・ピンカー。…まぁ、チェーニャって呼ばれてるかね」

生首から身体が生えてきて、ちゃんとした人型になる

猫耳の男…チェーニャは未だに怯えた様子のハルトをみて肩をすくめる

「そんなに驚かんでも、案内してやろうと思っただけだにゃー」

「案内?」

「俺は今からトレイのタルトを食べに行くんだにゃー。お前もパーティーに戻りたいんじゃにゃーの?」

ハルトはチェーニャを見つめ眉を下げる。胡散臭く笑うチェーニャについて行くか一瞬悩んだが

「違うなら別に構わんよ」

とてくてく歩き出してしまった背中に慌てて追いつく。多分置いていかれたら二度とこの迷路から出られない

「お、お願いします、チェーニャさん」

「んー、任されたにゃー」

チェーニャは猫らしくにんまりと笑い、トコトコ付いてくるハルトに満更でもないようだった

ふと思い付いたように足を止めて、後ろを歩くハルトの手を掴む

「あの、チェーニャさん?」

「さぁ、パーティーはあっち」

チェーニャはまた気分よく歩き始める

特に何を話すでもなく、調子外れなチェーニャの鼻歌を聞きながらハルトは大人しく手を引かれる

10分程歩き、ようやく薔薇の迷路から抜け出したハルトは安堵の息をはき出した

「ハルト!全く君は、また迷子になっていたのかい?」

戻るなりリドルに声をかけられ、ビクリと肩を揺らす

「あ、あの、迷子だったんですけど、この人が案内してくれて」

ハルトは慌てて隣を指すが、そこには誰もいなかった

「え?なんで?!今まで居たのに…」

「幻でもみたのかい?まぁいい、紅茶を頼むよ」

「はい寮長!」

ハルトは首を傾げつつ、リドルの為に紅茶の準備を始めた



次の何でもない日のパーティーの日

またハルトは薔薇の迷路に迷い込んでいた

「なんでこうなるの…」

「なんでまたいるんだにゃー」

「わっ!チェーニャさん!」

何時ぞやのように背後の空気からスーッと現れたチェーニャにまたハルトは驚く

「律儀なやつだーの」

と猫は笑った

「チェーニャさん、この前なんで消えちゃったんですか?」

「んにゃ?」

「トレイ先輩のタルトを食べに来たって言ってたじゃないですか。パーティーに戻ったら急にいなくなっててビックリしましたよ」

タルトは食べれたんですか?と呑気に尋ねる生徒をチェーニャはしばらくじーっと見つめる

「な、なんですか?」

「名前、何だったかにゃ」

「え?ハルトです」

ふむ。と頷いて、猫はハルトの頭を撫でた

「ハルト、また俺が案内してやろうかにゃ?どうせまた迷子なんじゃにゃーの?」

「あはは…はぁ…実はそうなんです。」

「素直でよろしーい」

チェーニャはいつかのようにご機嫌で鼻歌を歌いながらハルトの手を引く

チェーニャの調子外れな鼻歌を聞きながら、ハルトは少し笑う

何となくだが、また次も会う気がしたのだ



☆☆☆
次のパーティーの日
「で、お前はまたここにいるんだにゃー」

「また会う気がしたから逆にもうタルト持ってきました」

「学習能力があるのか無いのかわからんやつだにゃー」


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