お前なんて嫌いだばーか

ハルトはリドルと行動をすることが多い

少し厄介な体質を持っているハルトだが

「体質は君のせいではないし、他の生徒たちに比べれば、君自身は害が無いからね。」

と気にしないでくれるのと、いざその厄介事が起こった際にもすぐ対応してくれるので楽なのだ

しかし、常に一緒と言う訳には行かない

「仔犬ども、今日は2人1組での授業だ。ペアはこちらで決めてやった。順に読み上げるから名を呼ばれた仔犬からさっさと移動しろ」

今日は2年のクラス合同で魔法薬学の授業だ

クルーウェルがよく通る声で名前を読み上げていく。

ハルトは、別に誰でも良いが出来ればリドルかアズールかジェイドあたりがいいなとぼんやり考えていた。優秀なやつがペアになれば自分がサボれる。

ハルトの番となり、ペアとして名を呼ばれたのは

「よろしくな!ハルト!」

「カリム・アルアジーム?!いや、お前だけはダメだ!ジャミルに殺される!」

「急になんだぁ?!」

ギョッとして飛び退いた(大袈裟でなく、ホントに猫のように飛び上がってカリムから遠ざかった)ハルトを見て、カリムも驚き軽く身を引く

「知らないのか!?ジャミルから俺に近づくなって言われてるだろ?!」

「んー、なんか言われてた気がするけど…忘れた!」

ニコニコと告げられ、ハルトは頭を抱える。

「わかった、お前はここにいろ。リドルかジャミルに代わってもらう」

「そんなに俺とじゃ嫌か!?」

ショックを受けた様子のカリムに、いやとか嫌いじゃなくてなぁとハルトは眉を下げる。

「お前に何かあったらジャミルの首が飛ぶし、そうなりゃ俺が殺されるんだよ」

「大丈夫だって!そんなことさせないから、な?」

「だってお前絶対余計なことすんじゃん!俺まじヤバいやつだから!」

「ハルトは良い奴だぜ!」

「性格の話じゃないんだよなぁ?!」

全部のペアが読み上げられるまで互いに譲らず押し問答が続いていたが、ピシッとムチを叩きつける音がそれを遮る

「ごちゃごちゃ吠えるな駄犬ども。さっさと準備しろ。躾られたいか?」

「すみません…仕方ない…カリム、今日はよろしく」

ハルトは渋々ペアを承諾した。が

「頼むから、俺が離れろと言ったらすぐ離れてくれ 」

と忠告だけは忘れなかった

「よくわかんねーけど、わかったぜ」

とカリムは元気よく返事をし、ニカッと笑った



授業はスムーズに進んだ

「カリム、その瓶とって。そっちじゃなくて、青い方」

「これか?」

「それを1さじ…大盛りじゃなくてすりきれ1杯な」

「わかったぜ!」

カリムはおおらかで多少の大雑把な所があるが、ハルトがそれをフォローし細かく指示を出し、カリムも素直にそれに従う

「お前、魔法薬学得意なんだな」

「俺ポムフィオーレだし、解毒薬は特に得意なんだ」

「へー。リドルといつも一緒にいるから、ハーツラビュルだと思ってたぜ」

「よく言われるよ」

鍋から視線は外さないが、雑談しながら鍋を混ぜる

「あとは刻んだマンドラゴラを…ぅ」

「…ハルト?」

急に右手で口を抑え、気分悪そうに青い顔になっていくハルトは、小さな声で

「離れろ」

とだけ言った

「どうした?大丈夫か?薬飲むか?」

カリムが心配そうにハルトを覗き込む。ハルトは焦る。ペアを組む前に離れろと言ったらすぐ距離を取れと忠告しておいたのに、カリムはすっかり忘れているらしかった

カリムを押しのけ叫ぶように

「離れろ!」

と言い、走り出そうと体の向きを変える

「まてよ!どうしたんだ?大丈夫なのか?」

カリムは咄嗟にハルトの左手首を掴んだ

ハルトの顔は顔を歪ませ、異変に気がついてこちらに顔を向けたリドルに

「避難させてくれ!!」

と頼んだ

「彼の近くにいるものは至急避難を!早く離れるんだ!!」

リドルの通る声が教室に響く。リドルはふざけた冗談を言う方では無いし、指示には有無を言わさない威厳がある。

他の生徒を見ていたクルーウェルもすぐにハルトの様子に気が付くと

「ローズハートの指示に従え!さっさとしろ仔犬ども!」

と声を響かせた

とにかく異常事態なのだろうと感じ取った生徒たちがハルトから波が引くように一斉に距離をとる

ハルトの口元を抑えた指の隙間から何かが滴り、床に黒い染みを作った

「…お”え”」

ザワつく教室の中で、びちゃびちゃと不快な水音が響き始める

「…お前も、離れろ、…ごぼっ…」

ハルトの口の端から、どぼどぼと黒いヘドロのようなものが流れ出る

それは鼻を覆いたくなる程の異臭を放ち、床にどんどんと広がっていく

カリムは思わず掴んだ手を離した。

ハルトは床にしゃがみ込み、ゲボゲボとヘドロを吐き出す。時折ヘドロを止めようと堪えたり飲み込もうとするものの、収まらないようだ

「…がばっ…ごぼっ…」

涙を流し苦しそうに喉を掻きむしりながら、ただただ黒いものの嘔吐を続ける。

カリムは呆然とそれを見ていたが、急にハルトの横に膝をついた

ハルトは目を見開き何か言おうとしたが、口から溢れ出るヘドロのせいで嗚咽しか出てこない

「悪いハルト、少し我慢してくれ」

カリムは右手でハルトの後頭部をつかみ、左手をハルトの喉の奥に突っ込んだ

ハルトは僅かに抵抗したが、後頭部を抑え込まれ喉や舌の奥を強く刺激され身体を震わせる

先程とは比べ物にならない量のヘドロが留めなく溢れ出た

「もう少しだ、頑張れ」

口内のヘドロを無理やり手で掻き出され、何も吐き出さなくなる頃にはハルトはぐったりしていた



「だからお前とは嫌だったんだ!ちゃんと離れろって言ったじゃないか!!!」

居残りで教室掃除をしながらハルトは怒鳴った

勢いよく叩きつけられたモップから水が飛び散る

「悪かったって!」

手の痛みに顔を歪めつつ、カリムは目の前の剣幕に謝罪する

ハルトの厄介な体質とは、呪いだった。数日に1度、猛毒を吐き出すのだ。自身では一切制御できない

この毒はかなり強く、少しでも接触すれば皮膚が爛れ火傷のようになり、数分で死に至る。

現にハルトの口内に突っ込んだカリムの左手は爛れて腫れ上がり、随分と痛そうだ。

ジャミルは黙々とカリムの手に包帯を巻いていたが

「ヴィル寮長とクルーウェル先生に感謝するんだな…」

と呆れたように言った

ハルトはヴィル寮長に頼み解毒薬を作ってもらい常に携帯していたし、それを知っていたクルーウェルがすぐに対応しカリムに適切な処置を施したのだ

故にカリムは死なずに済んだ

「大体、お前が俺の腕を掴んでなければ誰もいないとこまで行けたんだよ!授業を中断する必要も無かったんだからな!」

クルーウェルは授業を中断したことを叱らなかったし、特に罰を命じることもなかった。本人がわざとしたことでは無いし、抗いようのない呪いなのだから仕方がなかったのだ

しかしみんなに迷惑をかけたと自責の念があり、ハルトは自分から教室の片付けを申し出た

「わかったよ!反省してるって!本当に悪かったよ!でもさ…」

カリムは包帯の巻かれた手を握ったり開いたりしながら、ちょっと言いにくそうに

「お前が1人で苦しむなら、放っておけないと思ったんだ」

「な……」

ハルトは口をパクパクさせ、言葉が出てこない様子だった

カリムは少し照れたように笑った。ジャミルは額に手をやりやれやれと首を振っている

「おまえ、おまえなぁ…」

ハルトは手に持ったモップを落とした

「お前なんて大嫌いだ!!」

「ええ!なんだよ急に?!」

ハルトはぷりぷりと怒って、掃除をほっぽりだし教室から出て行ってしまった

「なぁジャミル、俺変なこと言ったか?」

「…俺はアイツの気持ちがわかるよ。」

ジャミルは大きなため息を吐いた



☆☆☆
side2年生達

リドル「すぐに避難するんだ!余計なことをしていると首を跳ねるよ!?」
ジャミル「カリム?!何やってんだアイツ!?」
シルバー「一体何事だ?」
ラギー「うわーエグい臭い…毒っスねアレ。かわいそ」
フロイド「何あれやべぇ、飛行術の後のアズールみたい」
ジェイド「おやおや…かなり強い毒のようですね」
アズール「あの毒、なにかに使えませんかね…」

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