星見るハイエナ

ラギーとハルトは同郷でハイエナ同士だ。と言っても、故郷に住んでいた際には面識は無かった

ハイエナがナイトレイブンカレッジに入学出来ることは珍しく、互いに気になって声をかけてみたら同郷であったことがわかったのだ

2人ともサバナクローに入寮したこともあり、なんとなく一緒につるんでいることが多かった

食堂でこんもりと肉を盛り付けた皿を持ちハルトと一緒に席を探しながら、そう言えばとラギーは口を開いた

「ハルト君のユニーク魔法ってみたことないスね」

「え、なんなの突然 」

「いや、急に気になって。どんなんなんスか?」

「んー、話す程大した物じゃないよ」

ハルトは曖昧に笑って、見つけた空席に腰掛ける。

大した物じゃないなら話してもいいようなものだが、ハルトはそれ以上続ける気はないらしい

「ふーん?」

ラギーは同郷のハイエナに対し深く詮索するつもりはなく、ただたまたま思い出して世間話の一環として聞いてみたに過ぎない

なのにそんな態度をとられると逆に気になってしまう。が

「ま、いいスけど」

そう言ってハルトの隣に座り、特に話題に執着すること無く肉にかじり付き始めた。



「ったく、植物園にいないし、どこに行ったんスかね」

ラギーはレオナを探しに植物園の裏の森の中を歩いていた。午後からの授業をすっぽかして姿をくらましてしまったのだ

「レオナさんが授業に出ないと、何故か俺が怒られるってのに…」

いつの間にかレオナの世話役を任され、先生達からも言伝を貰うようになっているラギーはため息をついて森を進む

と、森の中に小柄な人影が地面に屈んでいるのを見つけた

「ハルト君?」

ハルトはラギーに気付かず、何かを拾い上げて立ち上がった

目を凝らすと、どうやら持ちたげたのは鳥の様だった。他の獣にでも襲われたのか、身体中傷だらけで長く持たないだろうボロ雑巾のような鳥はバタバタと暴れる

「『星を数えろ 安らかに眠り 穏やかに絶えろ メメントモリ』」

ハルトが穏やかに紡ぐとチカチカと光が弾け、苦しそうに藻掻いていた鳥はすっと動かなくなった

「メメントモリ?」

「『死を忘るなかれ』だな。あいつのユニーク魔法だ」

「レオナさん?!いつの間に背後に?!」

「あーうるせぇ。今だよ今」

レオナはわざとらしく耳を塞いで鬱陶しそうに顔を顰める

「ってレオナさん、ハルト君のユニーク魔法知ってたんスか?」

「あぁ?まぁな。あいつのユニーク魔法は」



夜。ラギーは、寮の談話室でウトウトしていたハルトの前に立つ

「スラムの救世主」

ハルトの耳がぴくりと動く

「なーんて言われてたのはアンタだったんスね、ハルト」

ラギーが意地悪く笑いながらそう声をかけると、バレたか…とハルトは苦笑した

「俺のユニーク魔法みたの?」

「たまたま森で…てか、なんでレオナさんが知ってるんスか」

「…1回腹立ってレオナさんにユニーク魔法かけようとしたんだけど、防衛魔法で弾かれて他の寮生が寝ちゃったんだよね」

「何してんスかアンタ…」

ハルトのユニーク魔法は相手を眠らせる。ただそれだけの魔法だ。

それだけの魔法だが、貧しいスラムの人々の支えとなっていたことがあった

指1本動かせない空腹も、砂を飲む程の乾きも、気絶すら許さない痛みも、全ての爪を剥がしてもなお地面を掻き毟る毒も、絶望だけを見つめる深淵の瞳も、全てを塗り潰し深い深い眠りへと落とす魔法

その魔法をかけられたものは、母の胸で眠る赤子のように安らかに眠る

「婆ちゃんが言ってたってス。スラム育ちで貧しくてどれだけ苦しくても、死ぬ時だけは安らかに行けるように救世主様が来るって」

ラギーも実際、とても安らかな表情で死ねる様な状態でない者が、それこそ眠るように息絶えているのを見たことがあった

「ハイエナ風情に出来ることは、誤魔化しくらいだからね…救世主は言い過ぎだけど」

ハルトは笑った。少し悲しそうに

「何も持ってないから、分け与えてやれるもんがあれば良かったんだけどな 」

ラギーは少し黙って、いつものようにシシッと笑った

「ハルトに似合ってて、優しくて、いい魔法だと思うスよ」

今度面倒事起こされないようにレオナさんにそのユニーク魔法かけて、2人で出掛けましょ

ラギーがそう言うと、ハルトはしっぽを振って笑った



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