ガラスの靴じゃ踊れない
光が差し込む窓辺で、小柄な生徒が本を読んでいる
口元に小さく笑みを浮かべて本に視線を落とす姿をみつけ、ジェイドもつられるように笑みを浮かべた
つかつかと歩み寄り、後ろから覗き込み声をかける
「おや、監督生さん。こんにちは」
「わっ!びっくりした!こんにちは、ジェイド先輩」
監督生が上を見上げると、逆さまのジェイドの顔があった。
初めは驚いたものの、毎度毎度背後から声をかけてくる彼に多少慣れてきている監督生は笑顔で挨拶をする
ジェイドは自然な動きで監督生の隣の椅子に腰を下ろし
「おひとりとは珍しいですね。グリムさんはどちらへ?」
と尋ねる
「こんな退屈なとこはゴメンなんだゾ!って、どこかへ行っちゃいました」
「おやおや」
ジェイドが口元に手を当てて上品に笑うと、監督生もニコリと笑う
この2人は、互いが互いにつられるように笑うことが多い
「今日は何を読んでみえるのですか…?絵本の様ですが」
監督生の手元を覗き込む。よくある姫と王子様が出てくるおとぎ話のようだ
「元の世界にも似たようなのがあって、つい懐かしくって…絵本なんて年甲斐もなく恥ずかしいんですけど…」
「…どの様な話なのですか?」
「これはですねー」
監督生は少し照れたように笑いながら、物語のあらすじを説明する
図書室に、穏やかな声だけが小さく聞こえる
「…ふむ。ガラスの靴が、その女性の足にピッタリと嵌ったと」
「そうなんです。それで、王子様と結婚するんですって」
「同じ足のサイズの女性など、大勢いそうですが」
顎の下に手を当てて真剣に考えるジェイドに、監督生は夢のない話ですねとクスクス笑う
「この子はお姉様たちに虐められてて満足な食事が取れず、発育不良でかなり痩せてて小さな足だった、なんて説があるみたいですよ」
「なるほど」
納得したように頷いて、ところで、とジェイドは続ける
「監督生さんの足のサイズはどれほどですか?」
「なんですか、突然」
「なんとなく、気になったものですから」
そうジェイドは周りから胡散臭いと定評の顔でニッコリと笑った
「監督生さん、また図書室でお会いしましたね。少しよろしいですか?」
「ジェイド先輩。こんにちは」
相変わらず背後から声をかけてくる彼に苦笑しながら、監督生は挨拶をする
「今日も読書ですか?」
「いえ、今日は明日の小テストの勉強です。」
グリムはまた逃げちゃいましたけど。と監督生が困った様に笑うと、ジェイドは口元に手を当てておやおやと笑った
「監督生さん、少しこちらを向いていただけますか?」
ジェイドは、小柄な生徒の横の床に膝をつき、そう声をかける
「?」
構いませんが…と、くるりと90度向きを変えジェイドの方へ向く。普段背の高いジェイドを見下ろし、監督生は少し妙な気分になった
ジェイドは満足そうにニコリと笑うと、監督生の片足を取り靴を脱がせる
「ジェ、ジェイドさん?!」
突然のことに慌てる監督生だが、ジェイドは気にした風もなく手にした紙袋から取り出したものを監督生の片足にすっと履かせた
「ガラスの、くつ?」
「あなたに、似合うかと思いまして。いかがでしょう?」
キラキラと日光を浴びて、水晶のように輝く靴に目が釘付けになる。物語に出てきた様な、綺麗な綺麗な靴。サイズもピッタリだ
「流石に、本物のガラスの靴ではありませんがね。前に読んでいた物語をモチーフにしたものだそうですよ」
気に入って頂けましたか?と、目の前に跪いた男は監督生を見つめる
「すごく、すごく綺麗です…」
「それはよかった。もしよければ受け取って下さい。あと、」
僕のお姫様になっていただけますか?そう首を傾げながら、いつものように笑いながらジェイドは問う
答えなどわかっているというように。
「は、はい…喜んで…」
監督生は真っ赤な顔で口元を押え、とてもとても小さな声でそう返事をしたのだった
☆☆☆
「小エビちゃーん!あ、その靴どうしたのぉ?」
「ジェイド先輩からいただいたんです。すごく可愛くて、履くのが勿体ないくらい」
「それー、テネーブルの靴でしょ?めっちゃくちゃ高」
「フロイド。」
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