五条悟
「お風呂ありがとう」
風呂場からリビングへ戻ると、悟はソファに座って報告書を読んでいた。
自分の部屋だからか、いつも付けている黒のアイマスクは外されていた。綺麗な青い瞳は優しく、甘くこちらを向いている。
任務の内容が書かれてるであろう書類をローテーブルに置いた彼は、こっちきて、ここ座ってと私を手招いた。悟の前、脚の間に入り込み柔らかいラグの上に背を向けて座ると、彼は優しく私の髪を掬い撫でた。
「風邪、ひいちゃうよ。僕が乾かしてあげる」
最初からそうするつもりだったのだろう、ドライヤーはすぐ近くに用意されていた。悟は何かと私の髪を触りたがる。いつだったか、高専の頃から良く触れられていたと思う。触れ方はその時から変わらず、ゆっくりで優しい。
「どうかした?なんだかぼーっとしてる。考えごと?」
「悟、昔からよく私の髪に触るじゃない?どうしてなのかなって」
彼は一瞬きょとんとしたものの、ふっ、と息を零しながら笑った。撫でていた手はするりと毛先まで移り、指に絡ませて遊ばせていた。
「オマエの髪、昔から太陽の下だと光の輪っかができるんだよねぇ。それがすっごく綺麗なの。それが気になって触ってたのが癖になっちゃった」
僕もお風呂入ってこよーっと、と言いながら悟は私の髪から手を離し立ち上がる。
離れていく手に寂しさを感じた。そんな自分に、すっかり悟に染まってしまったなと心の中で呆れ笑った。
風呂場に向かうドアの前でふと振り返った悟が言う。
「僕がお風呂から出たら髪乾かしてよ。僕も触られるの好きなんだよね。…オマエと一緒だね?」
そう揶揄った悟の表情は、髪を触っていた時のような、愛おしくこちらを見る優しいかおだった。