ボスに呼び出されているからにはたとえ運転疲れしてようと行くしかない。どのくらいの時間を要するかわからないから、長旅に付き合わせたクロロを家に送り届けて今日はここでお別れにしようかと提案したら却下された。いやなんで。

「……ナマエは休みが少ないんだから今日別れたら暫く会えないだろ」
「え」
「文句あるか!」
「いや…。なんか可愛いって思ったんだけど病気かな?」
「それは恋だよナマエ」
「うるせえ。…本当に何時間かかるかもわかんないよ?それでも良いなら終わったら会いにくるけど。そうする?」
「スパダリってナマエのこと言うんだな」
「は?スパダリ?とりあえず終わったら連絡するから。」
「あぁ。気をつけて」


一昨日の夜に付き合うことになって、その翌日は孤児院へ寄ってお土産を渡して、子供たちと遊んだり昔からいる先生に近況を報告をしたり。変わらない穏やかさで迎えてくれた施設の園長は毎月の寄付金が四人とも多すぎると苦笑いだった。好きでやっていることだから本当に好きに使って、と告げるとそんなことより誰か結婚でもして嫁の顔でもみせてくれとボヤかれてしまう。それは俺たちにとってかなりハードルが高いとこの人は気付いているのだろうか。というかつい昨日、同性の恋人ができた俺にとってかなり耳の痛い話である。

クロロと恋人同士、ね。

とりあえずまだボスの幸村くんや参謀の柳にバレませんように。そう願いながら幸村くんの執務室へと入る。

「あ、わざわざ悪いね#名字#」
「お疲れ様ー、幸村くん」
「この資料に目だけ通して貰える?」
「はーい。これ急ぎ?」
「いや、明日から少し此処離れるから先に見ておいて貰おうと思って。俺がいない間頼んだよ。」
「そういうことね、了解。丸井とか仁王って今日どっか出てる?」
「さっき仲良く休憩室入っていったよ」
「お!ありがとう!」
「休みなのに悪かったね」
「いや全然大丈夫だよ。じゃあ俺丸井達と少し話してから帰るね」
「あぁ。お疲れ。あ、それと#名字#。」
「んー?」
「君の項にキスマークつけた恋人にも休みを邪魔して悪かったと伝えておいてくれるかい?」

咄嗟に思いっきり左手で首の後ろを隠す。それを見ながらそういうの付けてるの珍しいからつい、と悪気なさそうに幸村くんはにこにこと笑う。えっ、やだ、怖い。

何も言えずにははっ、今後は気をつけます…、とどこぞの黒い鼠よろしく乾いた笑いで足早に執務室を後にした。そのままの流れで休憩室へと駆け込むと仁王と丸井が目を丸くしながらこちらを見ている。

「お前今日休みだろぃ?」
「ちょっと幸村くんに呼ばれて来ただけ…」
「なんじゃ顔色悪いのぅ。」
「……施設は変わりなかったよ…」
「お!色々サンキューな!喜んでたか?」
「三人にもお礼したいからまた来てねって」
「たまには顔出さんとな」
「うん……」
「で、なにがあったんだ?」
「丸井、仁王。笑わないで聞いてくれる?」
「多分無理」
「俺も無理じゃ」
「死ね!!!!!」
「嘘だよ、言えよ」
「………俺、クロロと付き合うことになった」

笑いが止まらなくなった二人はいつまでサボっとる!と真田がキレながら入ってくるまでひぃひぃと腹を抱えていた。俺二人の交際発言聞いてそこまで笑ったことある?と問い詰めたいくらいだ。

幸せにしてもらえよ!
まあ、頑張りんしゃい。

未だに止まらない笑いを抑えながら同時に肩を叩いて二人は仕事へと戻って行く。大体お前もだな、と説教モードに入る真田をシカトして休憩室を後にする。

終わったから何処にいるか教えて、とメールを送ればすぐに返事が返って来た。どうやら遠くないカフェで待ってるらしい。半分くらいはクロロが運転してくれたけどそれでも疲れたし、明日からまた暫く仕事漬け。帰ってこないだの寂しいだの俺は本当に恋人かだのぐだぐだ文句を言うクロロが頭の中に広がる。どれも言われたわけじゃないのに、鮮明にボイス付きで再生されるから慣れとは恐ろしい。面倒臭いから俺の家に居てくれたら手間が省けるのに。

……って、俺ちょっと簡単にクロロに絆されすぎじゃない?


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