ディオスコロイ計画 小説 | ナノ






 白銀の少年がその広い庭を、愛犬を連れて散歩していた時、いつもは大人しい愛犬がいきなり手綱をひっぱり走りだした。
 手に絡めるように紐を持っていた彼は咄嗟に手綱を手放す事が出来ず、その愛犬が走るがまま追い掛けるしかなかった。


 そして足を踏み入れたのは、禁足地と呼ばれ入る事を許されなかった森の中。




 しかし、彼はそのまま走り続けた。



 愛犬に引っ張られているから、だけではなく。
 彼は其の森の奥に自分を待っている何かがある、と感じたからだ。
 確証も無ければ、何があるのかすら知らない。

 しかし、確かに彼はその先にある何かを求めていたのだ。






 漆黒の少年はいつもの読書を終え、塔でただ一つ、景色を見渡せる窓へ躰を預ける。
 鉄格子が嵌められているため、躰を出す事は適わない。
 それでも窓へ行くのは、外の世界に自分を迎えに来てくれる誰かがいるような気がしたからだ。

 自分の事など、既に誰も必要としていないのかもしれない。唯一、世話をしに来てくれる使用人だけが、外界との接点である事も彼にはわかっていた。
 彼女は独り身でありながら子どもがおり、当主に逆らって首になっては子どもを養う事ができなくなってしまう。
 いつも助ける事ができないと、彼のことを思ってくれていた。
 そんな彼女に申し訳なく、何度死のうと思ったかはわからない。
 自分がいなくなれば、彼女はもっと良い仕事が出来るのではないか、と。こんな辺鄙な場所に毎日来ては自分の世話をするのだ。
 彼女は優しく気立てが良いので、こんな自分の世話なんかよりももっと彼女に合った仕事があるはずだからだ。

 しかし、死ぬことは出来なかった。
 外の世界にいる、何かにどうしようもなく焦がれたから。
 それに相対する事無く、死ぬ事など彼には何故か出来なかったのだ。

 じっ、と彼はそれを待つように森を見つめ続けていた。


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