ディオスコロイ計画 小説 | ナノ
肆
そこで漆黒の少年は育まれた。
初めこそは両親も訪れていたが次第に足は遠退いていき、ついには全てを使用人が世話をすることになっていた。
そのような劣悪な環境の中でも、彼は実に聡明でありまた優しさを身につけていく。
ひとえに彼を育てた使用人が、彼に愛情を注いだからである。
彼女にとって、翼の色も形も、彼を定義するものには何一つとして成りえなかったからだ。
もともと、この家系の異常ともとれる翼への執着には気味の悪いものを感じていた。
彼は被害者なのだ。
今、彼を愛することができるのは私だけなのだ。
それは使用人としてではなく、彼女自身が感じたものであった。
そんな彼女に育まれた彼は、言葉を発する事や読み書きをする事は勿論の事、彼女によって運び込まれた書物を読む事で、他の同世代の子どもたちと比べても何一つ劣ることのない知識を身に付けていた。
幸いにも時間だけは限りなくあったため、それに比例して、彼は心も躰も健やかに成長していった。
一方、双子の弟である白銀の少年は、その類い稀なる美しき羽根と、見目麗しい容姿、またその優秀な頭脳を持ってして、一族始まって以来の神童として崇められていた。
しかし、彼はそのことに関しては全く興味を表すことなく、自身の出世の為に媚を売る人々に対して冷たい視線を送り続けた。
そう、彼は全く笑わなかった。
まるで人生の全てがつまらないとでも言うような無反応さが、また彼の神秘的な部分を高めていた。
彼は何処かでずっと違和感を感じていた。
この家系に生まれて十五年、ずっと何かが足りないと思っていた。
それは気にする事が無ければ、本当に些細なもの。だけれども、一度気にしてしまえば、気持ち悪くて夜も眠れないくらいの不具合。
何をしても足りないし、埋まらない何かが彼の中にあった。
彼自身、そうだとはっきり気付いたのは物心がつき始めたとき。
それを両親に伝えれば、決してそれを口に出してはいけないと告げられる。両親は彼が感じている空白が何なのかを、薄らとだが確かに確信していた。
しかし、彼にはその原因が何なのかわからない。そうして月日は悪戯に過ぎていってしまった。
そして遂に、双りは邂逅の時を迎える。
→次