わたしは娼婦


ーー娼婦の気持ちは、娼婦にしか分からない。

美里はタバコを吸いながら道を歩く男たちの品定めを始めた。のんびりはしてられない。本当ならばそこいらを歩く男の腕の一本や二本、かっさらってでもホテルにしけこみたかったのだが、美里はこれでも花の18歳。ぐっと焦る気持ちを抑え、息をひそめるように黒いスーツに身を包んで街中の隅にうっそりと佇んでいたのだった。目的は金。美里はただ一人の親類である父親を亡くしてからは、ずっと一人で生きてきた。当然金などはあまりなく、当時通っていた高校も自主退学せざる得なかった。何故自分だけがこのような苦労をしなくてはならないのか、美里は歯を噛みしめる思いだったが、それでも今日という日は否応なく訪れる。美里は相変わらず、砂を噛むような思いで街に立ち尽くすのだった。

「三万で、どう」

声をかけてきた男は会社員風の輩で、美里は心の中で男を軽蔑しつつも、顔の表情はにこやかに返事をして見せた。

「いいよ。じゃ、行こうか」

慣れた様子で美里は、男の横にぴたりと寄り添いながら歩く。そのままホテルになだれ込むと、男が急に笑顔になった。

「ねえ、君。おしっこ飲ませて?」

美里はまたしても、心中で男に対して罵声を浴びせながらも快く了承した。

「ほら、いっぱい飲んでね」

美里はそう言うと、パンツを足のところにずり下げながら股間の力を緩めた。数秒後、黄金色の液体がちろちろと太ももと太ももの間を流れる。

「ああ、美味しいよ。もっと飲ませて」

男はオットセイのように喘ぐと、自分の手を使って自らの性器を上下した。気持ち悪い。美里は軽蔑の眼差しで男を見やると、男は歓喜しながら性器を握る右手のスピードを早くした。

「もっと虐めて、僕を気持ちよくさせて!」

男をいじめて得た金は、すべて生活のために消費される。パンを食うのもシャワーを浴びるのも、この行為があってのことである。美里のすべては性行為にあると言っても過言ではなかったし、性行為がなくては美里は生きていけなかった。男なしでは生きていけない弱い自分を美里は憎んではいたが、売春をやめるのは死と同等の意味があるのでやめるわけにはいかなかった。

「ありがとう。今日は楽しかったよ」

三万円を握ると、美里はホテルを勢いよく飛び出した。後ろで男が飯でも一瞬に食おうとか間抜けなことを抜かしていたが、無視して早足で駆け出してやった。ざまあみろ、馬鹿な男よ。今度会ったら警察に突き出してやる。無論、警察に突き出したら高校生である美里までもが捕まる羽目になるため本当に通報する気はさらさらないのだが、警察に突き出してやりたいほどに先ほどの男の変態プレイには呆れていた。美里は汚いものを払うみたいに、肩のあたりをポンポンはたきながら歩いた。

道中、美里は大好きなファーストフード店に立ち寄り、ハンバーガーにありついた。サイドメニューであるポテトも頼み、コーラで流し込んだ。店内には制服姿の高校生のような若者で溢れかえり、美里は若干の居心地の悪さをかみしめる。美里は勢いよく椅子から立ち上がると、ファーストフード店をものの10分で立ち去った。

閑散としたアパートにつくころには、もう夕方に近づいていた。美里は湿っぽい布団に横になると、そのままゆっくり目を閉じる。今日は三万円を手に入れることが出来たので、しばらく金を稼ぎに行かなくても大丈夫だ。美里は心の底から安堵して、束の間の安らぎに胸を撫で下ろした。もしかしたら次に売春をした時には危険な目にあわされるかもしれないが、美里が売春をやめることはないだろう。彼女はアドレナリンが溢れ出る危険な日々を、楽しんでいる節があったのだから。自分を置いて死んでいった父親と、売春で交わる変態な男たちとを重ね合わせては懐かしがる趣味が、彼女にはあったのだから。

ーー娼婦の気持ちは、娼婦にしか分からないのだ。

20141025



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