生きるも死ぬもあなた次第

深夜の路地裏に佇む唯香はいわゆるホームレスというやつで、15歳にも関わらず住む家を持たなかった。彼女の服装は冬にも関わらず肩の出たミニのニットワンピで、膝まで隠れるブーツを履いている。チャラチャラとした格好をするのは無論、男を引っ掛けるためであり、その日も唯香は馬鹿な男を今か今かと待ち構えていた。

寒空の下、一時間ほど立っていたのだろうか。目の前に、25くらいの男が佇んでいた。しめた、こいつに金をせびってやろうと唯香は考え、男に微笑みかける。すると男は、意外な言葉を吐いてみせた。

「お前のこと、飼ってやるよ」

唯香はその言葉にど肝を抜かれた。この男は一体何のつもりでこのようなことを口走るのだろう。サディストなのだろうか。瞬時に様々な思案に頭を膨らませ、唯香は一瞬言葉を失った。だが次の瞬間、唯香は恐々と口を開いた。

「いいよ。飼ってください」

男は唯香の返答に満足したのか、うっすらと微笑みを見せると右手で手招きをした。俺について来い。何も心配するな。そう言っているかのような手の動きなので、唯香は不覚にも男に対して気持ちを許しそうになっていた。見知らぬ男についていくのだから気を引き締めなくてはならないのにも関わらず、唯香は鼻歌まじりに男の後を追った。

男の住む部屋に付くと、唯香はベッドに押し倒された。いきなりのその行為に驚きを隠せない唯香は、戸惑いの表情を浮かべた。普通、シャワーを浴びたり会話をしたりとなんらかの手順を踏んで行為に及ぶものではないか。男の無作法な行為に若干の腹が立ち、唯香はきっと男を睨んだ。すると男は唯香の頬にビンタを喰らわせた。

「なんだその目は。お前は素直に黙って従っておけばいいんだ」

男の豹変した態度に、唯香は若干の不安を感じた。しかしそれも最初のうちだけで、そもそも生きる希望を持たない唯香は、このようなサディストな男にたとえ殺されたとしてもそれはそれで幸せなのではないかという思いに駆られた。どうせまた道端に立ち尽くして男に媚びを売る生活を強いられるのなら、いっそのこと死んでしまった方が楽なのではないか。すると考えるより先に、唯香の口から蚊の鳴くような声が部屋に響きわたった。

「なんなら殺して。今すぐに」

男は待ってましたとばかりに目尻が下がり、唯香の首に両手を回した。呼吸が止まる感覚は案外気持ちがよく、唯香は恍惚とした表情を浮かべながら男の顔を見た。男も同じく満ち足りた表情を浮かべていて、唯香は初めて味わうエクスタシーに言葉を失った。男に命をコントロールされる快感。生きるも死ぬも、この男の気持ち次第で全てが変わってしまう危うさ。唯香は全身で「男に飼われる」という感覚を噛み締めて身震いをした。脳内は酸欠ですでにクラクラし、唯香はあと一歩というところで気を失いそうになった。

「ああ、気持ちよかった…」

寸前のところで手を離した男によって、唯香は生き延びることができた。唯香は首を抑えながら、今はじめて生まれたかのような感覚に胸を躍らせた。私は赤子。そしてまた、この男に殺されるために生まれた。

「今度はもっと強くしめてあげるよ」

男のその言葉に、唯香は心から胸が踊った。唯香の死体が発見されたのは、それから一週間後のことだった。その表情は、仏のように穏やかだったのこと。

20141101


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