※ ほんのりBL要素が無きにしも非ずなのかもしれないので苦手な方はバックぷりーず
丁度純度高い良い焼酎と、玖狼のところの美味しいみかんが早生で手に入ったので、果実酒にでもしようかと思いたったのが丁度三ヶ月前。
所謂オレンジリキュールというやつで、地下という冷暗所で熟成されたそれは、綺麗な蜜柑色になっていた。
そろそろ飲み頃かと思い、果肉取り出す。中で透き通った蜜柑色が揺蕩うのをみて櫂兎は微笑んだ
「邵可んとこ行って一緒に飲も」
壺を引っ提げるんるんと邵可邸を訪れれば、丁度夕餉前で夕飯ご馳走になることになった。
「ああ……秀麗ちゃんの作るごはんは格別に美味しい…」
「そんな、人並みですって」
「そんなことないですよ、秀麗さんの料理、僕も美味しいと思います」
国試前にまだ宿が決まっていないということで邵可邸にとまる影月が言う。秀麗は照れて礼言った
食事も済んで一息ついたところで、そういえば今夜きた目的を忘れていたと壺を取り出す。
「なんです、これ」
「子供は飲むものじゃないから気にしない気にしない。邵可、今日は飲み明かすぞ」
「今日はお酒はいいかな、飲みたいなら櫂兎一人で飲んでなよ」
その言葉にがっくりと項垂れ次に静蘭をみる櫂兎だが、私も要りませんとにこりと断られる。他人の家でひとり酒かあと、しょぼんとする櫂兎に影月は苦笑いした。
「僕、お隣にいましょうか? お酒はご一緒できませんけど、お茶くらいなら」
「……う、国試前なのにごめんな!」
そういいつつもがっしりと手をつかんで離さない櫂兎
「身体ひやさないように気をつけて下さいね」
秀麗がそれをみてくすりと笑い言った。
「ん…思ったより度がきついのか、果実酒って」
猪口についだ半透明オレンジ色をこくりと飲んで櫂兎は言った。
「果実酒なんですか。そういえばすごく蜜柑のいい香りがしますね」
茶を啜る影月はそうして半透明のたゆたうオレンジ色を覗き込んだ。
「だろ、折角だから邵可と飲みたかったんだけどなー。まあいいや、独り占めだ、独り占め」
そうして少しゆったりとしたペースで飲む。蜜柑の甘酸っぱい爽やかな風味がおいしい。ほろ酔いになり自然、言葉が前に出るようになり愚痴りだす
「あんの黎深が何かと私事に不器用過ぎて俺はもうどうすればいいか…っていうかあれはなんであんなに不器用かつ我儘大王なんだよ」
「あ、あは、あはは……」
れいしんって誰だろう、もしかしなくとも結構酔いが回っているんじゃないかと影月が思ったところで、櫂兎が急に立ち上がった
「それもこれも、邵可の育て方が悪い!!」
何故そうなるのかと苦笑いする影月に、すとんとしゃがみこんだ櫂兎はごく真剣そうに言う。
「こうして俺が一人酒飲むことになるのもあいつに忘れられたままなのも、きっと邵可の陰謀だ…影で俺を笑ってるんだ……あいつ、腹黒いもん」
普段ののほほんとした姿しかしらない影月は、腹黒い邵可が想像できなかった。
しばらく沈黙の後、まじまじと見つめられたと思えば抱きつかれた。
「――ッ!! 櫂兎さんっ!?」
赤面し、焦る影月のことなどお構いなしに櫂兎はぎゅうと抱き付いては頭をぽふぽふと撫でる。
「うあああ……可愛い可愛い、小動物――影月はリスかな。可愛い可愛い可愛い可愛いああでも世界一可愛いのは俺の妹だ」
ハッとしたように影月を解放し、今度は妹可愛いと櫂兎が言い始める。
解放された影月は、焦る心をとにかく落ち着かせようと勢いよく茶を飲んだ――つもりだった
「ちょ、影月それ俺の猪口――」
その出来事に酔いもさめ、櫂兎は真っ青になる。影月が、酒を飲んでしまった――
ふっ、と影月のほわりとした雰囲気がかわり、どこか鋭さをもつ雰囲気を纏う。その元影月――現陽月はポツリと意外そうな声をだした
「美味い」
どうやら蜜柑の果実酒はお気に召したらしかった。
「うわあああああ影月ごめんなあああああ」
頭を抱え悶える櫂兎を、陽月は全く気にする素振りもみせず猪口に酒をつぎ飲む。
「おい」
「なんだよツンツンしてんじゃねえよ俺の癒しの影月を返せ」
「……お前、もうちょっと驚くとかさ」
「知らん、帰れ」
陽月は溜息をついた。
「俺はお呼びじゃないってか」
「…いや、別にそういう意味じゃないんだけれど。ええと、陽月?」
「ふん、俺のこと知ってたのか。まあ訂正の手間が省けるってもんだ」
にやりと笑い陽月は猪口を傾けた。そういや初遭遇だった
「陽月は躾されてない猫っぽい」
「はっ、飼われる気のない矜恃高い猫なんだよ」
「なつけば可愛く鳴いてくれんの?」
「ごろにゃーんってか。はは、そりゃねえな」
ちぇ、櫂兎は口を尖らせた。そしてどんどんと勝手に飲まれている果実酒の壺を取り上げる
「……なにすんだよ」
「こっちの台詞!未成年お酒だめ!」
「んな法ねえし俺をいくつだと思ってる」
確かに俺の数百倍生きてた。だがしかし
「俺が飲みたいんだよ!」
「本音それかよ!?」
ったく、と湯のみを投げ渡される。
「…酒飲むのはやっぱ猪口がいいな」
「奇遇だな、俺もだ」
そうしてこちらのことも気にせず壺を取り返し自分にだけついで飲みだす陽月。ペースはやいのに酔わないあたりが流石である
自分も飲もうと壺を持ち上げたところでその軽さに目が点になる。ほとんど残っていない。壺の残りを湯のみにあければ、湯のみの半分あたりのところまでしかなかった。
「飲み過ぎだろう!? 酒返せ!」
「飲んだものは返せねえよ」
ざまあみろと言う風な陽月の顔に悔しがれば、陽月の顔がずいっと近づく。近い近い近い近い! 顔面すれすれで手を間にして止める
「何する気……」
「飲み足りないんだろ?」
にやりと笑う陽月に疑問符を頭上に並べる。
「接吻したら、まだ残ってる酒の余韻味わえるぜ」
「断固拒否だそんなもん。俺の初めてのちゅうは妹に捧げる予定だからな!」
ちなみに妹のセカンドキスを戴きたい所存だが、彼女はまだファースト未経験だ。(俺が何かと集る男子を蹴散らしたせいかもしれない)
「なんなの、陽月くんそういう趣味なの、春色よりたち悪いよ」
げえ、と青い顔で言えば軽い調子でさらりと告げられる。
「は、お前だからだろ。ちょっとは気に入ってんだぜ」
猫を懐かせてみる気はないかと陽月は笑った。完全に余裕の表情でからかわれ遊ばれている
次の瞬間腕引かれ、先程とは逆で抱き締められた。酔った勢いでさっき抱き付いた影月に土下座で謝りたい。これは恥ずかしい、なかなかに恥ずかしい。
「酒は、もうないのか」
「果実酒はあれしか作ってないし、それしかもってきてないよ」
舌打ちしぼそりと「酒切れか…」と呟いて陽月は倒れた。
小さい壺でよかった、と櫂兎は思った。
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bkm