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「おい櫂兎」


「………ん?」


「いつまでそうしているつもりだ」


髪を触っていいかと言い出してから約半刻、未だなお髪を触り続ける友。何がそんなに楽しくてこうじっと髪を触っているんだ



「ずっと触っときたい」


そう言うと櫂兎は髪に顔を埋め頬ずりする。頭がどうかしてしまったのかと呆れ、押し離す


「……む、もうちょっとだけ触っててもよかったじゃん」


「阿呆か。もう半刻触り続けられている身にもなれ」


「うっ……だって殲華の髪、もふもふなんだよ! 劉輝はモフサラァッて感じだけど、殲華のはもふもふ、いや、もふぁもふぁ! 劉輝の髪は撫でる感覚好きだけど、殲華の髪は手櫛通してぽふぽふ触るのがいいなっ!」


「……息子の髪をいつも触っとったのかお前は」


ペロリと舌を出し悪びれもしていない友人に溜息をつく



「しかし、モチの触るべきは頬だろう。よく伸びる」


「殲華は伸びないの?」


そうして頬を触ってくる。予想外の動きに体が止まり、不覚ながら頬を掴まれることになった。


「はなひぇ!」


「うーん……肌は女性もうらやむもち肌だけど、劉輝ほど伸びないのな」


つまり伸びるところは母親似か、と妙に納得げにそうかそうかと満足そうに頷いて手を離される。意外と痛かった
仕返しに両頬を掴み引っ張ってつついて抑えてやれば


「っ…ぶふっ」


「ぬぁ、わらうことぁねえでしょうが」


「いや…だがなこれは……ぷぷぷ」


「ちょ、酷くね?! そんなに俺のムンクの叫びは面白いか!!?」


「むんくの叫びというのか? はは、だからかな。人が泣き叫んでるところを見るのは好きだしな」


じろりとジト目でみられるのに、鼻で嗤って返す
また髪に手を伸ばす櫂兎の腕を掴んだ


「…………いいじゃんちょっとくらい」


「嫌だな」


「けち」


「はっ、自分の髪でも触っとけ」


せせら笑えば櫂兎は自分の髪をくるくると弄んでは溜息をつく


「髪、伸ばそうかな。ああでも一年じゃ大差ないしなあ…」


そういえばこの友人は、何とも奇妙なことにあったときから年取らず…いや、取っているらしいのだが、その瞬間一年巻戻りだとかなんともややこしいことしていたような気がする。どうやら髪を伸ばそうにも一年単位じゃどうにもならないらしい


「……ちょっと待っておけ」


そうしてがさごそと引き出しを弄りだす殲華。そして「あったぞ」と取り出したのは


「…………なんだこれ?」


「縹家からの嫌がらせで藁人形用の髪大量生産できるとかなんとかのうたい文句、実際は叩きつけた瞬間から髪が肩あたりまで伸びる呪が組んである。意外と使えるから老後にと思い取って置いた奴だ、やろう」


「えー、なにそれ怪しぐふぁっ」


返事の有無も気にせず殲華はその札を櫂兎の額に叩きつける。瞬間、何か風が通り抜けたかのように櫂兎の髪がなびいた。――伸びたのだ。


「……あれ、なんか頭が重…って何だこりゃあああああ」


あじあんびゅーてぃーだよ!と謎の言葉を吐く友をみて満足げに殲華は頷いた


「祟り殺す札じゃなかったみたいでよかったよかった」


「……殲華、そんなおっそろしいこといわないで…………」


そうして伸びた髪をさらさらと触る櫂兎。殲華も一緒になって触ってみる


「……絹のようだな」


「え、そういわれると照れる」


そのままさらさらと殲華は櫂兎の髪を触り、一言綺麗だと呟いた


「…………何か恥ずかしいんだけど、触られんの」


「今まで散々人の髪触ってきたお返しだ」


そうしてどうやら櫂兎の髪を触るのが気に入ったらしい殲華はきっちり一刻髪を触り弄り続けたそーな


「……倍返しかよ」

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