悠舜は、もう動かぬ自分の脚を自嘲気味にみた。
(……もう、歩く必要もない)
ひらひらと、梨の花弁が当たり一面に舞う。春風が頬を撫で、そこで一筋涙流していたことに気付いた。
「……春も、いいものですね」
かつての恩人の言葉を思い出しては、悠舜はくしゃりと笑った。
「あんたまた来たわけ?! 王サマが稼業ほっぽり出してんじゃ無いわよ」
「うっ…だがな秀麗」
「だけどもへったくれもないわよ!ほら、さっさと帰――」
秀麗の視界が何かに覆われ、唇に何か当たる感触。それが何か分かったところで秀麗は顔を真っ赤にして劉輝を押し離した。
「何して――」
「秀麗と会ったのも、こんな風に桜が綺麗な時だった」
来年も、再来年も、ずっと一緒にこうして桜みられるといいな、と劉輝は言った。
「余は秀麗のいる、この春の国が好きだ」
「……そう」
「秀麗のことも、大好きだ」
「――〜ッ、だからそういうことは!……もう、いいわ。言ってもどうせ納得してくれないし」
「余は頑固だからな」
そうして劉輝は桜を見つめた。
「来年でも、再来年でも、何度桜が咲こうと、余は待つつもりだ」
「…………」
「秀麗」
「……何よ」
「愛している」
「愛しているよ、お芋姫」
「……スプリングフォース、いえ、春色四男、冗談がキツイですわ」
春の病は治ったんではなかったんですのとお芋姫は言った。
「冗談なんかじゃない、病抜きで、本当はずっと好きだった」
「……所詮、それは気の迷いに過ぎませんでしょう」
「生憎、こう見えて私は迷ってもきちんと目的地に着ける男なんだよ」
「……目的地がここだ、とでも言っているつもりですの?」
それにこくりと頷いた楸瑛に、お芋姫は溜息をついた
「私が貴方に言う言葉はたった一つですわ」
「……というと?」
「私もあ
「うわああああああああああああ?!」
櫂兎は布団から跳ね起きた
「うわああああ、悪夢だった……内容あまり覚えてないけど、悪夢だった、気がする…」
――思い出さない方がきっと幸せである
そうして今日も、彼の一日が始まった。
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