・いずも様
ある日の昼下がり。午前中で仕事を終わらせた櫂兎は、女装すべく後宮の珠翠の室を訪れていた。

今日は久々の、旺季との茶会の日だ。……毎回する度に久々になってしまっている気がするのは、きっと気のせいではないのだろう。


珠翠には少し目を逸らしてもらっているうちに、ポイポイと服を脱いで、羽織れるものは羽織ってしまう。久々に着るとはいえ、昔取った杵柄とでもいうべきか、すんなり身につけられてしまった自分に、櫂兎は苦笑した。


「もう大丈夫だよ、珠翠」


櫂兎は両手で顔を覆っていた珠翠に声を掛けた。指の隙間から若干みられていたような気がするのは、気のせいだと信じたい。


「あ、黄桃色の帯、どこいったか知らない?」


櫂兎の問いかけに、珠翠はまさに櫂兎が探していた帯を、素早く差し出した。


(流石は珠翠…できる子!)


早速受け取り、櫂兎は腰に帯を回した。珠翠は、一人では結び辛い紐通しに手を貸しながら、他の装飾品準備にとりかかる。


「髪飾りはこれでよろしいですか? それとも、こちらにしますか?」

「んー、桃の花の絵柄がはいってる方にする」


長髪のかつらを素早くかぶり、上手く馴染ませてから器用に結い上げた櫂兎は、珠翠の手から髪飾りを受け取る。


「前と後ろと横と、何処につけようかなー。……横だな」


鏡で確認しながら髪飾りをつけた櫂兎は、珠翠の方を向いてどこか甘えるように名を呼ぶ。


「しゅーすい〜」

「……ど、どうなさいましたか、櫂兎さん」

「……へへー、珠翠、お化粧して?」


櫂兎はそう言うと、にこにこと、楽しみにしている風に化粧道具を持ち上げて示してみせた。珠翠はしょうがないなといった風にちいさく息を漏らす。
彼は決して自分で化粧出来ないわけではなく、むしろ上手に出来る部類にはいるということは珠翠だって知っている。しかし、昔から彼は、こうして化粧だけは珠翠にやってくれと頼むのだった。そして珠翠は、こうして頼られるのが案外嫌いではなかった。




「きゃ〜! 珠翠、ありがとう。今日も美しく可愛らしく仕上がりましたわ! これも珠翠のお陰ね」


ばっちり化粧が施され、すっかり櫂兎は華蓮モードに入った。


「さて、そろそろいってきますわ」


そういって櫂兎は鮮やかな紅の唇で弧をつくる。彼の笑顔は、昔から相変わらずあたたかい。自然、珠翠も笑みがこぼれた。


「いってらっしゃいませ」


珠翠の見送りの中、櫂兎はゆったりと室を出て行った。




■あとがき
ほのぼの、になっているでしょうか。仲良しさんです。


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