エイプリルフールだったし、いつもしつこい兄への仕返しも兼ねて、プチ家出みたいなことを、してやろうと思った。
置き手紙をして、深夜こっそり家を抜け出して、打ち合わせ通り友達の家に泊まらせてもらう、そんなシナリオ。家に帰るのは午後、きっと兄は私の置き手紙の内容を信じて本を片手にふんぬん言っているに違いない。
どんな反応をされるかな、なんて想像しながら、私は呼び鈴を押した。
…………反応はない、鍵はあいているようだから、きっと中にはいるはずだけれど。真剣に二次元に行こうとしていて、きこえてないのかもと思うと笑いがこみあげてきた。
ここで大声で笑ってしまっては台無しと、口を抑えて私は自分の部屋へと向かう。扉はあいていた。
中を覗けば、兄。どこか疲れ切った顔で、私の本棚を物色していた。
「兄貴」
話しかけた、返事がない。
「兄貴ってば!」
さっきより、少し大きな声で声を掛けると、兄は肩をはねさせてこちらを向いた。その目が見開かれる
「か……な…?」
なんだか、その兄の顔は、たった半日離れていただけなのに、何百年振りに再会したみたいな顔をしていた。
途端、兄に抱き締められる。力一杯加減なしに締めてくるので、苦しくなってもがくと、慌てた風に兄は私から離れた。
怒ってやろうとしたら、兄はどうやら泣いているようで、よかった、よかったとぼろぼろ涙を零すので、私は怒るタイミングを失った。
兄が鼻水をすすりながら、何処に行っていたんだ、とか聞く。インスマスか、コメリカか? なんて本気で二次元の地名を引っ張ってきて真剣にきくものだから、私は可笑しくなって爆笑してしまった。
「ばwwwこんなの冗談に決まってんじゃんwww第一トリップとか現実的に考えてあり得ないしwww」
エイプリルフール、嘘だよ嘘。全部嘘。そう私が告げると、兄は私の言うことがまるで理解できないとでもいうように、呆然とした表情をした。
△Menu ▼
bkm