「あら、櫂兎、これはなんです?」
「げ」
悠舜がひょいと持ち上げた冊子を慌ててひったくる。
「酷いですねえ、内容見せないために必死だなんて。もしかして桃色草子の類ですか?」
鳳珠が後ろで動揺してがしゃこんと墨入れを倒す音がする。なんともピュアな心をお持ちだ。…桃色草子の存在は知ってるようだったが
雑巾を手渡すと無言でこぼした墨を拭きだす。視線を合わせてくれない
「ちがうちがう、ただ、その、見てもわからないと思うし」
その冊子は俺の手書きで、表紙には平仮名で「さいうんこくものがたりげんさく」だ。
覚えている限りの原作内容を忘れないように、ほかの人にはわからないようにすべて平仮名で書いている。
「またまたあ、そんな風に言って。大丈夫、何があっても気にしませんから」
「俺が気にするの…」
なんせ天下の軍師、鳳燐様だ。平仮名解読しそうで怖い。
「まあまあ」
「いや、その…」
「見せてくださらないんですか?」
「いや…あの、」
にこにこ
にこにこ
俺はその笑顔の裏の恐怖を知っている。
「ちょ、ちょっとだけな、すぐ返してくれよ?」
「はいはい」
そうしてにこにこと中を見た悠舜が、平仮名の羅列を見て変な顔をする
「だから言ったろ、わかんないって」
「これは、暗号ですか?」
「うーん…まあそんなとこかなぁ。俺の故郷の言語の記し方のひとつ」
「……賭け碁、しません?」
「な、なんか聞きたいことあるなら普通に訊いてくれてもいいだろ?!」
俺、次に悠舜と碁を打ったらぼろぼろに負けると思うもん…
「けどそれじゃあ真偽が…いえ、いいです。櫂兎の故郷って隠れ里かなんかなんですか?」
うーん、そうおもわれるのも仕方ないよな
暗号に独自文化となると、閉鎖的な場所の出としか思えないもんな…
「まあそんなとこだな。隠れ里というよりかは島国だから他と隔離されてて独自の文化が生まれたって感じ」
その言葉に知識フル稼働させて島国の心当たりをつけようとしている悠舜。しかし見つけられなかったのか、また深くため息をついた
「櫂兎って、謎ですね」
「悠舜が言うなよ…」
△Menu ▼
bkm