劉輝とリオウとお茶を共にした数日後。妙な騒がしさを不思議に思いその訳を尋ねてみると、俺が王と会ったことで、先代の筆頭女官である華蓮が今後宮に滞在していることが広まって、外朝の人間が後宮の側まできているとのことだった。
「知らぬ方からの取り次ぎは全て、お申し付けの通りお断りしております」
「ええ、ありがとう珠翠。つまり、それを告げても帰らない、ということですのね」
「申し訳ございません」
「まあ。貴女の落ち度ではないのだから、謝るのはお門違いでしてよ」
おほほ、と笑って、「いっそその場に出ていってやりましょうか」なんて提案してみれば、「余計騒ぎになるだけです」と切って捨てられてしまった。
「ところで珠翠、本日の予定なのだけれど」
府庫に行こうと思っていることを告げる。心配顔の珠翠に不敵に笑ってみせた。
「見つかるなんて下手は打ちませんわ。こっそり行きますもの」
そうしてこっそり行ったはずだったのだが、飛翔とばったり会ってしまった。
目を合わせた途端口を開けたまま微動だにしない飛翔があまりに不気味で、声を掛けてみたりしたのだが、無反応だった。結局、逃げるようにその場を後にした。
何はともあれ、府庫である。
「ごきげんよう、ですわよ邵可! 来ましたわ! 華蓮様のお越しですわよお〜」
「府庫では静かにね」
「ハイ」
調子に乗っているところを普通にたしなめられてしまった。きまりがわるい。
「それで、どうしてまた府庫に?」
「遊びに来た、ではいけませんの? まあ、少し調べ物をしきにたのですわ」
「いいけれど。『今噂の先代筆頭女官さん』がここにいちゃっていいの?」
「いいんですの。といいますか、何ですのその噂って! 私はそんなに注目の的だというの?」
「連日話題は君のことでもちきりだよ。今は親や先輩から伝え聞いたとかいう、君の噂を知っている人が中心だけれど、その人達から絶世の美女だとかいう話をきいて一目見たいって人がどんどん増えてるねえ」
「なにそれこわい」
「ははは。でも本当に、君のそれは詐欺だよねえ。あ、お茶淹れる?」
「私が淹れて差し上げましてよ。ふふふ、そーんな今話題の美女からお茶を注いで貰えるのですわ、喜ぶといいですの」
「わー、嬉しいよ」
ちっとも嬉しそうじゃないじゃねえかよ。このやろー、不味い茶を淹れてやろうか。……邵可ほど不味いお茶を淹れられる気もしないし、茶葉が勿体無いだけだな。
普通の手順で美味しくお茶を淹れれば、お茶菓子は? なんて邵可が訊くので、小腹が空いた時に食べようと思っていた干し芋を出した。
さて、目当ての情報を求めて書物を漁る。何冊か見繕っては、机に広げ読みだした。
「また藁人形でも作るの?」
広げていた書物を覗き込んだ邵可が言う。
「いや、それはまた今度にする」
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bkm