青嵐にゆれる月草 15
「率直に言う。この場を借りて、頼みたいことがある」

「それは、縹リオウとしてですの? それとも、仙洞令君として?」

「仙洞令君として、だ。実は近いうちに、藍家の姫が後宮入りする。その姫の面倒をみてほしい」


劉輝に視線を向ける。劉輝は姫の後宮入りに関して、そんなのごめんだとでもいうように、それでいて断る術が自分にはないとでもいうように、困った顔をして俺にすがる。


「確かに、私がこの度後宮に訪れたのも、その姫の噂をきいてのことですわ。
しかし、私は既に引退した身。こう見えておばあちゃんですの。仕事を任されるような歳では…」

「心は20代だときいたが」

「そ、そうですわね! そうですわよー、まだまだ現役には負けませんわ!」

「なら問題ないだろう。見ていたところ、本当に身体までよく動くようだしな」

「……くっ」


乗せられてしまった、だと! くうっ、女性に年齢の話をしてはならないと学ばなかったのか、全く! 俺は男だけど!


「まあ、故郷を離れて貴陽にいらっしゃるのですから、姫君は心細い思いをしてらっしゃることでしょう。この老いぼれでも、話し相手くらいにはなりますわ。
ですが、あくまで話し相手。後宮に関することは、全て珠翠に任せてあります。世話役も、他の者がつくでしょう。私には、若い者の仕事を奪う気はございませんわ」

「ああ、それでいい」

「む、ぐ、ぐ…」


劉輝が非常に酸っぱくて苦いものを食べたような顰めっ面をする。


「輿入には反対で、譲歩したというところですかしら?」

「う、うう…華蓮〜…」


泣きつくような劉輝に苦笑する。それはまあ、秀麗ちゃんを想定したところのこの報せだものなあ。結婚すらままならないなんて。


「劉輝様。私は、劉輝様に、王宮で生きていくのに必要な、ごく一般的な術をお教えしてきました」


一般的、の言葉に、その特異性を知る者がきけば皆が皆首をかしげたことだろうことは間違いない。俺もちょっと変なことを教えすぎたかなと思うところはあるのだが、仕方ないのだ、実際必要だったのだから!


「しかし、王として、ということについては説きませんでした。世話役に過ぎぬ私が説くには、身に余ることでしたから」


実際、俺が「王とは〜」なんてこと知るわけもなく、教えられる人間でもない。


「役職にはその役職の役割を果たすことを求められます。料理人が料理を作ることを求められるように、医師が病人を治すように求められるように、王にも、王たる役割があり、それを果たすよう求められます」

「これは、王としての役割だと?」

「……。先の王は、あの人は、婚姻も、子を残すことも、どこか役割だと割り切った、のでしょうかね。なんだか私、そんな気がいたしますわ」


尤も彼は、だからこそ、心ばかりは誰にも渡さずにいて、その想いは彼だけのものだったのだと、そう思うのだけれど。


「国のためにと何かを諦めろというのは、その人の人らしさを捨てろというようなものです。王にそのような役割を求めたのは、一体誰なのでしょうね」


ゆっくりと、ゆっくりと。俺は優しく劉輝の頭を撫でた。

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空中三回転半宙返り土下座
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