「劉輝様は、変わられましたわね。良いことですわ」
「むう?」
首をかしげた劉輝に俺は告げる。
「耐える、でなく、立ち向かうことを選べるようになりました。強く、なられましたわ」
よく頑張られましたね、と頭を撫でると、劉輝は少し目を見開いてから、くすぐったそうにはにかんだ。
「褒められたのだ」
「ええ。褒めますわ、もう、たくさん褒めちゃいますわ! 劉輝様は頑張っています。たいへんよくできましたのはなまるをあげちゃいますわ!」
そうしてもふもふと撫でる、久しぶりの劉輝の髪質は、昔と変わらず心地よい手触りだ。
「ご褒美は何がよろしいですかしらねえ。マドレーヌでも作りましょうか、それとも他にご希望が?」
「華蓮の膝枕がいい!」
「子供みたいなことをおっしゃいますわね」
「そも、華蓮が余を子供のようだと言ったのではないか!」
「それもそうでしたわね」
ふかふかの絨毯の上に正座して、膝をぽんぽんと叩けば、劉輝は嬉しそうに膝に頭を乗せた。大の大人の膝枕、好きな子の膝ならいざ知らず、俺の膝で楽しいんだろうかと首をかしげる。本人が喜んでいるようなので、いいとするか。
「ああ、そう、この角度で、いつも華蓮の後ろに屋根と空が見えて」
「縁側ですることが多かったですものね」
「こうして頭を撫でられて。余は別に落ちたりしないのに、支えられて」
「あら。危ない場面が何度もありましてよ? 劉輝様ったらお元気で、ちっともじっとしてくださらないのですもの。ころころ〜っと転がり落ちそうになられては、何度ヒヤリとさせられましたか」
「そ、そうだったか? そそそそんなことはなかったはずだぞ? うん、なかった、なかったー」
「まあ劉輝様ったら」
誤魔化そうというのがばればれである。嘘はもっと上手くつかなくては。最も、そう上手くなられても困るし、分かりやすいくらいで丁度いいのだが。
そうして暫く劉輝を撫でていた俺は、リオウに、そろそろ今日ここに来た用件をきかせてもらうことにした。仙洞省の人間であることを最初に名乗ったのだ、決して談笑を目的にきたわけではないだろう。
「ところで。リオウくん、私に何か御用があるのではなくて?」
目を見開いて驚くリオウは微笑ましい。さりげなさを装ったつもりだったというのなら、後宮に届く書状の裏の読み合いに毎日ひいこらしていた俺には力不足だったと言わざるを得ない。
「思い出話に仙洞令君は不要でしょう?」
「……本当は、何度か共に、茶をしてからと思っていたんだが」
「あら。それはまあ、ご丁寧なことで。けれども私、回りくどいのは嫌いですの」
そう告げて、にっこり笑ってみせた。
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bkm