青嵐にゆれる月草 13
「俺は、それにする」

「紅茶ですわね」


牛乳を淹れるかを訊くと、変な顔をされて断られた。美味しいのに。俺も紅茶を淹れて、牛乳と蜂蜜を垂らす。初めてみた人に、信じられないものを見る目をされるのも、いつも通り。これが美味しいんだよ、これが。


「そう、そうだぞ華蓮! 華蓮は梦須と知り合いなのか?! 梦須も紅茶を淹れてくれたぞ!」

「むす? 誰ですのそれ」

「貘馬木梦須という男だ」


リオウの言葉に思わず紅茶をひっくり返しそうになった。そういやあの人そんな名前をしているんだった、セーガ君にも告げ口したところなのに、忘れていた。
しかし彼が紅茶を彼らに淹れた、とは。まさか、この間滞在していたうちに、彼らとお茶していたとでもいうのだろうか、勝手に紅茶まで持ち出して。邸にあるもの好きにしていいとはいったけど、持ち出しちゃったのかあの人は。本当にフリーダムだなもう!


「し、知り合いでは、ありませんわね」

「怪しい、怪しいぞ華蓮! 梦須も知らないの一点張りだったぞ!」

「それはそうですわ、会ったこともありませんもの!」


華蓮、としては会ったことがない。これは嘘じゃない。
内心びくびくしていると、リオウが劉輝に呆れたように言葉を向ける。


「『貘馬木』というくらいだし、噂くらいは知っている、とかなんじゃないか?」

「ええ、ええ。そのような感じですわ、人伝に、噂だけを」

「むう。そうか。ちなみに、梦須にはどんな噂があるんだ?」

「え、ええと、ものすご〜く規格外で、性の悪い変人、であるとか、ですわ」

「妙に的を得た噂だな?!」


何せ現物を間近で見てきた感想ですから。しかし、この表現で貘馬木殿の的を得ていると劉輝が感じてしまうというのは、どういうことだろう。あの人は一国の王に対しても、あのいつもの態度だったということか。貘馬木殿らしいといえばらしいのだが、恐れ知らずにも程がある。


「あら、劉輝様。いつの間にやら茶器が空になっていましたね、気付かず申し訳ありません。もう一杯お飲みになりますか?」

「うむ、おかわりなのだ!」


元気よく茶器を差し出す劉輝に笑みがこぼれる。気を許し甘えられているのが分かって、彼が普段どれだけ我慢をしているか知るだけに、なんだかどんどん甘やかしたくなってしまう。束の間、今だけだから、この時間ばかりは。ほけほけっとして、たんと甘えてほしい。

お茶を注いでいると、ポツリと劉輝が言った。

「華蓮は、変わらないな」

「うふふ、心の有りようですわ」


そう、俺は心だけは永遠の20代なのだ! 邵可には散々否定されたが。


「月日になんて、負けていられませんわ」

「うむ、昔も今も、綺麗だぞ!」


さらりと溢れる褒め言葉。どうしてこれが秀麗ちゃんに発揮しようとなると空回るのか、謎だ。


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空中三回転半宙返り土下座
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