拍手使用物 貘馬木梦須と、ひょんなこと。
見つけた隠し通路の続く先は
2012.06.26



茶州に新州牧就いて間もない頃。
茶家当主選定式後の茶本邸取り調べに便乗しては、茶本邸の見取り図で気になってたあたりを見に行ったこの俺、超絶素敵で無敵な貘馬木梦須様は、そこでたくさんの地下室や隠し部屋を見つけた。さすが俺だろ。んで、それらを脳内の地図にかき足してみたところ、不自然な空白、しかも直線になっているところが見つかった。それほどの幅じゃないから通路であると俺は目処つけた。


別に隠し通路は珍しくなんてなかったから、そのときは気になんてしていなかった。違和感に気付いたのは、その通路の入口を見つけた時。母屋からかなり離れたところにある客間に、それはあった。客間にあるなんてことは、内部の者のみが秘匿している通路じゃない。内部の者が客に知られる可能性ある場所に作るはずはないのだ。つまり、これを作ったのは外部の者の可能性が高い。内部に知られることなく作り上げられていたとして、それは一体何のための通路か。その先は茶本邸以外のところにのびているようだった。流石に道のり長そうだったため、一旦引き上げ半月分の食料や旅支度してまた向かった。


入った先には、二つの細い溝のようなものがあった。地面も並行ではないあたり、滑車でも走らせているのだろうと辺り探せば空の滑車が見つかる。これで物流の線が色濃くなった。
俺はいわゆる歩く人間定規、方角をみながらぴったり歩幅等しく歩いて距離を測るのが癖になってる。初めていった道だろうと同じところでぐるぐるなんて真似にはならない。といっても距離が長過ぎたら数えるの面倒になって途中で数えなくなるんだけどな


歩いてどれくらい経ったかは分からないが、この道が方角的に貴陽へ一直線だと見当つけた頃、貴陽に近くなったあたりで隣の溝の上を物凄い勢いで何かが通っていった。多分滑車だが、何が乗っていたのかは暗いし速過ぎてわからなかった。


半月ほどかかり着いた貴陽、その場所は民家。地下に米俵大量にあるが、これを運ぶためにわざわざこんな大仰なもの作るはずない、不自然すぎると思う俺の前にそいつは現れた。


「……どうして貘馬木殿が俺んちの地下にいるんですか」


「俺はどうして棚夏んちの地下が茶本邸の地下通路と繋がってんのか知りたい」


こいつ、やっぱとんでもねえわと思った。けどまあこいつだし、と人間大きな俺は棚夏の抱えるちっぽけな事情なんてちっとも気にしないことにした。


「……何で堂々と入り込んでお茶飲んでるんですか貴方は」


「いーじゃん、棚夏と俺の仲だろぉ」


「元上司と元部下、今は他人の関係じゃないんですか」


「冷てぇー」


今日は三日目だから駄目だとか言われ(意味わかんない理由だよなあ)、そのまま追い出されたんで、朝廷忍び込んで元上司に嫌がらせしたり、楊修からかったりしたあと貴陽をぶらぶらした。


「胡蝶ちゃん、泊めてぇ〜」


「……生きてたのかい、あんた」


久々に訪ねた知人には、死んでたと思われてましたとさ。


「なっ、なっ、茶州の新州牧就任前に新州牧巻き込んで起こった茶家のゴタゴタとか情報ほしくないっ? 今手持ちあんまねぇからそれで勘弁してっ! 貘馬木さんこう見えて子持ちの愛妻家だから妓楼に泊まるのは気がひけるんだけど、元部下には泊めて貰えなかったしぃ、貴陽の家は取り壊されてやがったのー」


胡蝶は溜息つき眉間をおさえた。泊めることは厭わないのだが、彼が持ってくる情報は、扱いに困るばかりでどうにも役立てられないのだ。とはいっても、新州牧就任に関係あるというなら知りたいところだが。


「相変わらずそういうことだけは耳はやいんだねぇ。というか貴陽住まいじゃなきゃ何処に住んでるってんだい」


「茶州」


内乱の少し前から茶州住まいだよ、と貘馬木はへらへら笑った。


「……現地で知った、にしては貴陽にくるまでがはやすぎるけど、それまたどういう絡繰で?」


「いやー、現地で実際目で見てきて、今ここにいるっていうねぇ〜。どういう絡繰なのかは俺が知りたいよ」


「……」


謎多き彼に、また謎が一つ増えた、と胡蝶は思った。


そのまま俺は嫦娥楼の一室借りることになり、暫くの貴陽滞在先が決まった。


そうして妓楼にいながら堅実生活、たまに朝廷忍び込んでは色々と情報を拾う生活送る貘馬木の元へ、ある日棚夏が冗官処分になったという噂が舞い込んできた。

元上司も無茶するなあと思い、噂探って吏部に入り込んでみた貘馬木が知ったのは、実際のところ棚夏が悪かった、ということだった。


「俺の勘もあいつ相手には役にたたねぇなー」


貘馬木は一人苦笑した。


決まりは決まり、守るべき理由がそこにあって出来たものだ。どんな事情あろうと、誰もが同情するものでも、一つ綻び許したら、あっという間に解けて糸になってしまう。わざと外して編み直すのが、いわゆる規律や法の改定だが、編み直すべき要素はここにはない。棚夏が決まりを守りませんでした、で冗官処分理由は終わりだ。


「仕事しねえな尚書〜とかずっと思ってたけど、ちゃんとしてるじゃん、棚夏の冗官処分それだけだけど。俺、爆笑」


そう言う貘馬木の表情は笑っていない。何を考えているのか分からないような、何もうつさない無表情だ。


(春に地位下げられてなきゃなー、尚書がどこまで考えてそうしたかは分からねえけど。
尚書がやりたいことは分かりやすい。兄馬鹿だと思ってたけど親馬鹿でもあったわけだ。)


棚夏はある意味それの被害者だったけど、確信犯でもあったんだろう。潔さだけはあいつらしい、褒めてやろうか。いや、冷やかしてやろう。


貘馬木は妙に上手い口笛を奏でながら、元部下の邸へと足取り軽やかに向かい始めた。

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空中三回転半宙返り土下座
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