邸に飛翔と玉を招く話
2012.05.13
明日は7日に1日の休息日。はやめに仕事終え、色々と拵えていた櫂兎は、門前の騒がしさに小さく笑みをこぼす。
(夕方、定時から朝廷出て直に来たくらいの時間、か。)
櫂兎は門まで赴き、訪れた二人を中に迎え入れた。
「そろそろ来ると思ってたよ」
「おう、言われたとおり定時あがって寄り道せず来たぜ。途中で陽玉がうるさくなけりゃもうちょっと早くついたのによー」
飛翔はぽりぽりと頬をかいて玉をみた。それに不服そうな声を玉はあげる
「玉です!仕事終わってまで貴方の顔見るなんて散々の道中でしたし、あれは尚書が悪いです」
「いんやお前のせいだ」
「尚書が悪いです」
「お前が悪い」
言い合う二人に櫂兎は笑う
「はは、いいくらいの時間になったから気にしない気にしない、それより入ってよ」
「……っ、はい!」
念願の邸だと玉が目を輝かす。
目の前にいた飛翔を押し退け、にこにこと前歩き客間、広間まで案内する櫂兎について行く。その足がふっと、回廊分かれたところで止まった
「……? どうしたんだ、玉」
「私の勘が、こっちだと告げています…!!」
そう言うなり玉は分かれ廊下に入ってしまった。
「玉、まっ、そっちは――」
慌てふためく櫂兎に飛翔はニヤリとした。
「『そっちは』? 何なんだろうなあ?」
そして玉のいる方向へ飛翔も進み出す。櫂兎は顔しかめ頭をくしゃくしゃとかいてから、彼らの後を追った。
廊下の突き当たりにポツンとある一つの扉の前に玉は立っていた。
「げっ、よりによってそこの部屋か……」
「何かあるのか、櫂兎」
「えーと」
言葉にごす櫂兎に玉は問う。
「念のため訊きますけれど、この扉は開けても? まあ不可と言われようと開けますが」
「容赦ないな!? 別に…うん、まあ、いいよ?」
その言葉の瞬間勢いよく玉は扉を開け覗き込んだ。待ってましたと言わんばかりに飛翔も見て――絶句した。
「櫂兎お前、こんな趣味があっ」
「俺の部屋じゃないからな?!」
一瞬固まった玉が動きを取り戻す。
「女性の……お部屋、ですね」
「ああ、佳那の部屋だ」
ファンシーかつ煌びやかにして、日当たりのよいその部屋は、彼女そのもののようなあたたかさが、年中満ちている。
「『かな』…? 彼女さんですか? あっ、もしかして奥さん…」
「妹!」
恐ろしいこと言ってくれやがるな玉、と櫂兎は苦笑いした。それに飛翔があれ、といった顔をする。
「お前、妹と一緒に住んでたか?」
「いや、妹とはここ20年ちょい会ってない。部屋だけつくった」
キリッ、と言ってみせた櫂兎に飛翔は呆れた。
「馬鹿だろお前」
櫂兎は、そんな飛翔にニヤリと笑ってみせた。
「妹のためなら馬鹿だろうと神にだろうとなってやる」
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