「いちおー帰るってことになってぇ……」
別れの挨拶にきた、と梦須は言った。
「寂しくなるな……」
しょぼーんとした劉輝に、梦須は苦笑する。
「ま、俺はほら? 幽霊だからぁ? いるもいないもおんなじ。帰るにしたって、いなくなったことにはならないんだ、元々いないものなんだから」
「だが、梦須は確かに、ここにいたぞ」
「……はー」
劉輝の言葉に、梦須は深く息を吐く。もー、なんだもー、と言いながらくしゃくしゃ頭を掻いて、口元をもごもごさせた。そんな梦須をみて、劉輝はふにゃふにゃとした微笑みを浮かべた。
貘馬木達が茶州に帰ることになったのは、よく晴れた日のことだった。とはいえ、地下通路のトロッコに乗ってしまえば晴れだろうが雨だろうが、外の天気は関係ないのだが。
「では、朔羅さん、沙羅ちゃん。身体に気をつけて、お元気で。
貘馬木殿は元気過ぎるので暫く寝ててください」
「はは、冷てーのォ」
すぱっと言い捨て梦須を追い立てる櫂兎に、梦須はケラケラと笑った。
「んじゃま、さいならってことで」
「棚夏のお兄さん、ありがとね!」
「お世話になりました」
櫂兎は地下へと降りていく三人に手を振る。そこで、ふとここに彼らが来た時も気になったことが思い出され、遠ざかる背に疑問を投げてみることにした。
「あの大きさの滑車に、どうやって三人乗ってるんですか」
「あのね、父様がねむぎゅっ」
「ひーみーつー! いいか、見るなよ〜絶対に見るなよーっ!」
なにそれ凄く気になる。そわそわして、今すぐにでも降りていきたくなる。
「みに来たらこのまま邸に住み着いてやるからな!」
「絶対みません! みろといわれても行きません!!!」
さすがにそのリスクを負ってまでみたいものではなかった。
しかし、彼らも帰ったとなれば、邸も随分落ち着くことだろう。やっと安息が戻って来てくれる。が、それも束の間、次の波がやってくるのは把握済みだ。
まずは旅に出たフリをする準備から、始めることにした。
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