長い沈黙と刺さる視線に、珠翠が息苦しさを感じ始めたところで、奈津は緊張を解くようにふうと長い長い息をついた。
「今はその言葉を信じましょう」
表情は依然厳しいままながらも、こくんと頷いた奈津に、珠翠は頭を下げる。
「ありがとうございます」
「やめてください、そのようなことは。感謝ではなく、反省すべきなのですよ、もう!
……どうか、裏切るような真似はしないで下さいね」
その奈津の表情はどこか辛く切なそうだった。ここに勤めて長い彼女のことだ、色々なことがあったのどろう。
「はい、もちろんです」
その気持ちに応えたいと、そう思った。
「ああ、そうでした。お報せしなければと思っていたことがひとつ」
珠翠がぱんと手をうって、『それ』を告げる。告げられた内容に、奈津はめいっぱい目を見開いた。
「陛下! 陛下、お待ちください、陛下っ」
叫び、後を追いかける櫂兎を振り返りもせず、劉輝は遠ざかる。焦りながら、見失わないようにと櫂兎は必死で廊下を駆けた。
(…あれ? けど、この方向ってーー)
この先にあるものは、先王殲華の元居住区、現在何にも使われていない場所。そして、行き止まりだ。
「なるほど、かくれんぼというわけですか、そうですか」
足を止め、櫂兎はにっこり微笑んだ。
「得意分野だ」
何せ自分は、今まで何度も彼を見つけ出してきたのだから。
暗闇の中、服飾品に囲まれて。劉輝は開き扉の服飾箪笥内で、幼き日のように膝を抱え、ただ静かに時が経つのを待っていた。昔とひとつ大きく違うのは、今回は自らここに隠れ、閉じこもったということだ。櫂兎が諦めるまで、こうしていよう。
それとも、その後も、これからも、ずっとここにいようか。いつかは誰かが心配して探しはじめてくれるだろうか。自分のことを、見つけてくれるだろうか。
(華蓮なら…)
華蓮なら、きっと自分を見つけてくれるだろう。しかし、その彼女は、今いない。その未来は望めない。
「……」
このまま、闇に溶けて消えてしまうような心地がして劉輝は総毛立つ。本当に自分がここにいるのか、静寂は肯定も否定もしてくれない。
襲い来る恐怖に飲まれそうになった、そのとき。扉が開け放たれ、光が差し込んだ。
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