緑風は刃のごとく 25
(あーもう信じらんないわ!)


荒れに荒れ、散らかしに散らかされた冗官室を、冗官達に指示を飛ばして掃除していた秀麗は、男に任せると読みふけって進まない、散乱した春本を致し方なく、本当に致し方なく、片付けていた。


(お、お、男っていうのはまったくー!)


脳裏に浮かぶのは、自分の知る身近な男性達の顔だ。同時にまさかという黒い疑惑もムクムク湧いてくる。不思議と、櫂兎とだけは縁遠いような気もしたが。


(これで櫂兎さんが読んでいたら…ああ、落ち込んで寝込む自信があるわ)


秀麗はそっと肩を落とした。
その隣でタンタンは、ピカピカになった室を感心して見回している。


「へーえ。なんつーか、ほんと同じ室? って感じ。君の言う通り、この人数でやると随分早く終わるんだなー。来年までかかると思ってたよ。その春本片付けるので最後?」

「そう。希望者は持って帰っていいけど、家で! 見てちょうだい。職場持ち込み厳禁!!」


春本の山に手を伸ばそうとしていた冗官達が秀麗の言葉でピタリと手を止め、口を尖らせる。秀麗はほとほと呆れた。
それでも尚に春本を手にとろうとする冗官をキッと強く睨むと、冗官から言い訳が飛んでくる。


「袋綴じついた桃色草子あったから、確保しておきたかっただけだってのー」

「袋…とじ?」


何だそれは、卵とじの仲間だろうか、なんて秀麗が顔に浮かべていると、知りたくもないのにその冗官はその本を手にとって実際にその部分を見せてくる。そうとなると当然、中の絵も露わになるわけで。


「きゃー! バカー! 何してるのよーっ!」

「わ、俺はただ説明しようと思っただけでー……って、この袋綴じ、もう中あいて空っぽじゃん!? うわーっ、最悪ぅ」

「最悪なのはこっちよ! もう、もうっ…!」


秀麗は顔を真っ赤にして怒鳴る。ーー要らぬ知識までついてしまった、本当に、本当に、最悪だ。








慌ただしく人が出入りし、中からは埃らしき灰色の煙もちらほらみえる冗官室を、櫂兎は遠目で眺めた。自分が冗官のときには一度も踏み入れなかった場所だったが、踏み入らなくて正解だったかもしれない。あの空間、呼吸すら辛そうだ。

人の出入りがおさまってきたのを確認してから、櫂兎は冗官室へと向かう。途中、絳攸がみえたが、此方には気付いていないようだった。きっと今日も迷子なのだろう。用事を終えた後で、まだ居たら道案内でもしてやろうかと思った。


櫂兎が冗官室を訪れたタイミングはばっちりだったらしく、これから冗官達は休憩、お茶でも淹れようというところだった。


「や、秀麗ちゃん。調子はどう?」


櫂兎は冗官室の入り口で、秀麗の背に声を掛けた。

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空中三回転半宙返り土下座
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