緑風は刃のごとく 04
「お前が『副官補佐』をしているうちに分かった。お前は、副官として使える奴だと」

「また、買い被りですよ」


居心地悪そうに頬をかく櫂兎に、皇毅は呆れた。嫌味か、本気なのか、おそらく本気なのだろう。それ故に、自覚のない分たちが悪い。


「いや、事実だ。この間お前がやりかけた『仕事の采配』もそうだ。完遂させることは目的では無かったが、お前がそのつもりで取り組んでくれたお陰で、こうして適性をみて調書も埋められたわけだ」


櫂兎は額を押さえる。


「……あの、いや、あの…本当、本人の至り知らぬところで計画組むのは、心臓に悪いです」

「だが、悪い話ではないだろう」

「ええ、確かに。だって、出世のお話ですものね。…でも」


櫂兎はそう言って目を一度閉じてから、ゆっくりと目を開き、にこりと笑みを浮かべた。


「長官にしては、詰めが甘かったですね」

「……何がだ」

「貴方のことですから、逃げ道なしに追い詰めて、話をのむように迫ってくるんだと、思っていました。私が御史台にきたときのように。だから私も、そのまま降参する気で話をきいていたのですが」

「何が言いたい?」


若干苛立ちを露わにした皇毅に、眠そうなときにこんな話をして悪かったかななどと内心反省しつつ、それは声に全く出さず、話を続ける。


「私に興味があるのは、出世じゃないんですよ、長官。そして、貴方はきちんと私に、逃げ道を残してくれている」

「……この話を蹴る気か」


櫂兎の考えを皇毅は理解する。皇毅の言葉を肯定するように、櫂兎は書類を机上に置いた。呆れながら、皇毅は瞳を閉じた。


「お前はどうする気だ、まさか副官補佐なんて位置に居座り続けるつもりなわけがあるまい」

「さて、どうしましょうかね」

「考えなしの反発か、思考の浅さが覗けるな」


本当に、馬鹿な奴だと皇毅は言った。少なくとも、使えると一度でも判断したことを間違ったとは思った。


「何とでもどうぞ。私としては、むしろ、こんな場所で出世しようものなら、何のために官吏を続けてきたのかと一生後悔します。
私には、他に、別の場所でやりたいことがあるんです。……ああ、もし官位剥奪されようものなら、この機に礼部を受けるのもいいですね」


櫂兎は依然変わらぬ態度で、それどころかはにかんで言ってみせた。


「……馬鹿だというべきか、懲りない奴だというべきか」


櫂兎が幾度となく礼部への異動希望をしてきたこと、そしてその度礼部側から断られてきたことを、櫂兎を調べる上で皇毅はよく知っていた。そんな目の前の彼が、希望も見えない採用に未だ尚、諦めていなかったことは哀れでしかなかった。

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空中三回転半宙返り土下座
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