心は藍よりも深く 20
「あの、自分で歩きますから、ちゃんと着いて行きますから、離してください……」

「その服でか?」

「えっ?」


櫂兎は自分の服をみた。……口紅、白粉がついている。歩いてきた方向からしてその理由が察されるというものだ。後宮で女性を胸で泣かせてきたとかいう、そういうのが。何てことだろう、これでは罪つくりな男のレッテルが貼られてしまうではないか


「これはですね、不可抗力というかなんというか」

「何でもいいが、見られて困るものなら隠していた方がいいだろう」


襟首掴まれていたのを離される。


「へっ、あの…」

「後ろから着いて来い、お前ほどの背丈ならそう離れず歩けば見えん」

「あ、ありがとうございます」


おずおずとそのまま身体を起こし、目線を上げる。その人物の顔が見えるようになった


「…………」

「どうした」


声の感じからして、そんな予想はしていたし、服から香る香がやたら上品なのも嫌な予感しかさせていなかったが、まさかそんなことがそうそうあってたまるかと楽観していた。まあ、それは見事裏切られたというか、想像通りだったというか。


目の前にいたのは、御史台長官、葵皇毅だった。








そう多くの人とはすれ違わず、彼が目的としていたであろう室についた。そう大きくはない部屋だ。入った途端、音の響きかたに違和感を抱く。防音加工でも施してあるんだろうか。こんなところに連れ込まれて一体どんな話をされるのか、櫂兎は緊張した。


「おい」

「はっ、はいっ」


皇毅にぽい、と投げられた布を受け取る。


「それで隠せばいいだろう」

「…ありがとうございます」


櫂兎はそれをポンチョのように羽織った。


「……」

「……」


………………沈黙が気まずい。あの、何で黙ってしまわれたんです皇毅さん。視線でそれを訴えると、皇毅はこほんとひとつ咳払いして、口を開いた。


「清雅から話はきいているな」

「……はい」


御史台勧誘、ちなみにどこの官位任命かはきいてないという恐ろしいお誘いである。


「答えをききにきた」

「いつでもよい、と仰ったのでは?」

「では、いつまで待たせるつもりだ?」

「それは……」


実のところ、どうすべきか考えあぐねていた。吏部に戻ることは考えていない、というか戻れない。
実のところずっと礼部に配属されたかったという願望があり、この機会になんて考えていたのだが、ばっさり断られた。吏部試は基準クリアだったのだが、礼部が大きく活動するのは国試前後くらいなので人手はいらないと。その上魯官吏自ら断りの一筆くれる始末。


「ちなみに、お前にこちらの話を断らせるつもりはない」


ちょっと待てじゃあ何故ききにきた。

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空中三回転半宙返り土下座
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