劉輝の持つお手玉に目を落とす。
後宮で手いっぱいになっていたせいだ。
いや、知っていても何もしなかった。
俺は、見殺しにしてる…っ
「すみません、劉輝様。少し行かなければいけないところができましたわ。今日はおやつにマドレーヌを焼いてきましたの、お先におひとりでお食べください」
「うむ、わかった」
ま・ど・れいぬ、とまるでフランス語のように今日のお菓子の名前を復唱して劉輝は菓子袋を受け取る
それを確認してから、俺は殲華の室へと駆けた。
部屋の前で入ってもいいかの確認すらとらずに、俺は乱暴に扉を開けた
殲華は、椅子に座っていた。
俺の様子に少し驚いた風なのも気にせずその腕を隠すようにした分厚い長い袖をまくる。その下にあったのは、一目見てもこれが危険だとわかるような、呪詛模様。
「バッカ…せん、かあ…っ」
涙があふれてくる。
よかったまだ泣き方を忘れてはいない。でも、流しても流しても、悲しみは消えてくれない。
「俺のせいだあっ、俺が何にもしなかったからあっ、」
腕にすがりつき泣きわめく俺の頭をぺしと殲華はたたいた。
「勝手にお前のせいにするな、櫂兎。これは俺が決めてやったことだ
人の生き死になんて、なるようにはなってるし、ならないようにもなってる。死ぬべきやつは死ぬべき時に死ぬし、生きるべきやつは死ぬべき時まで生き抜く。そういうもんだろうが」
それでも泣き鼻水たらしわーわーいう俺。うわあ、みっともねぇ。
ごつん、と今度は音がするほどの強さで頭を殴られる。拳骨で。
目の前に火花が散ったような気がしてくらりとし、自然と静かになる。
「俺が決めた、お前はとやかく言うな」
そう言って殲華は、目元を緩めた
しばらく日が経ち、御史台での取り調べの結果が出たとかで後宮に届けられた書簡にて、清苑公子と鈴蘭の君茶州へ流罪を知る。
俺は静かに目を閉じた。
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