午後は俺がいるからか、劉輝の兄たちは手を出してこず、午前も清苑が一緒にいるようになってから、劉輝の傷が増えることは格段に減った。
しかし兄たちも負けてはいないで、その手この手を使ってくる。重い扉も大人の力の前では無力とわかると、鍵つきで閉じ込める。全く誰の入れ知恵だろう、おかげで鍵開けの技術が格段に向上、簡単な仕組みの鍵なら短時間で開けられるようになってしまった。どうしてくれる、北斗みたいに義賊やれってか。
今日の鍵は前のものよりいくらか複雑だったが、慣れてしまったため鍵開けの応用でさほど時間はかからなかった
「やっとあえました、劉輝様」
「…日に日に華蓮の鍵開け技術が上がっていってるのだ」
仕方あるまい、最初にされた鍵がそのときたまたまさしてた簪させばあいたりしたものだから、隠し持たれた鍵を探すよりよほどいいと思ったのだ
「劉輝様に一目でも早く会えるのなら容易いものですわ。さて、『兄上様たち』に今日の劉輝は何を言われたのです」
「『邪魔だ』」
「そんなわけありません。劉輝様はちっこくてもふもふした子犬サイズなのでお膝の上に載せればまったく場所をとりません。もちろん、のびのびすくすく育った暁には私の人間椅子になってください」
「に、にんげんいす…」
しょぼんとする劉輝にくすりと笑みがこぼれる
「嘘ですわ。私の隣を空けておきますから、座る場所がなくなったら私の隣にくればいいですの」
嬉しそうに膝枕の上で転がる劉輝
頭が落ちたら大変なので、そ、と手を添える
「今日は、それだけだった」
「そうですの。流石にもう罵り専用となると語彙がありませんのね」
もふもふと、今日も劉輝の頭を撫でる。
「言われっぱなしではいけませんのよ、言いたいことはきっぱり言わないとなめられてしまいますわ」
「ぺろぺろとか?」
ぶ、物理的に舐められるのは確かにきついけども
「ぺろぺろ舐めるのは水あめだけでいいのです」
「そうか。…水あめ、おいしいからなっ!」
味を思い出したのか水あめを食べたそうな顔になっていたので、そっと腰ぎんちゃくに入れていた水あめの壺と箸を取り出し、劉輝にさしだした。とたんに喜び食べだす劉輝。
「華蓮は優しいのだー せいえんあにうえも優しいのだー
はっ、そういえば、華蓮はせいえんあにうえにあったことがないのであろう?
ここはひとつ、三人で遊ぶというのはどうだ?」
名案思いついたり! という顔で満面の笑みの劉輝。俺は反対に顔を引きつらせる。なにかと勘のいい第二公子様は俺の女装のからくりに気づいてしまうような気がする…
「申し訳ないですけれど、清苑様には私お会いできませんの」
「何故だ?! どうして!?」
「どうしても、ですわ。私は、劉輝様のお世話係ですから、劉輝様以外の方の目にはあまり触れないほうがいいんですの」
これは事実、王が直々にこっそり第六公子の子守を筆頭女官に頼んだことが知られれば、それを妬む姫君たちからあれやこれやいろんな嫌がらせを受け、陰謀に巻き込まれて『女の嫉妬は怖いのだ…』なんて一生絳攸以上の女性恐怖症になりかねない。それは非常に困る。困る困る!
「だから私のことは誰にも内緒にしていてくださいまし」
「…も、もう邵可には言ってしまったのだ!」
邵可…。
俺は頭を抱えた。よりによって、あいつかぁ
「ごめんなさいなのだ…」
「いいえ、お気になさらないで。彼とは古い友人ですから大丈夫ですわ」
「? 邵可は華蓮のことなんて知らないと言っていたぞ」
「…うふふ、顔をみれば思い出すはずですわ」
うふふ、うふふ。あの野郎。
毎年米俵送っている心優しい友人を忘れるとは何事だ。
しかし、まあまさかこんなところで女装して筆頭女官になってるとか思えるはずないので、きちんと謝れば許してやろうと思った。
……むしろ分かれというほうが無茶だった。
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bkm