欠けゆく白銀の砂時計 30
ちょうど家にも戻ったところで、府庫暮らしは一度終わりを迎えることにした。


「我が家ながら、開け過ぎたかなぁ」


数月帰っていなかったからか、軽く埃が積もっている。これは掃除の必要があるだろう。箒と雑巾を地下の物置きから出してきて、袖をまくる。さて、今日一日で終わるだろうか。







我が家ながら広い。嬉しいのか悲しいのか一人で暮らすには広い。知ってはいたけれど広い。結局半分ほどの部屋しか掃除出来なかった。


「流石にそろそろ夕飯の準備始めないとなー」


とはいっても、長期間保存できる食材ならいざ知らず、長く空けていた邸に夕飯用の食材が揃っているはずもなく。少し遅い時間だが、買い出しに出掛けることにした。


街からは、いつものような賑わいが消えていた。まるで何かに怯えているような、そんな違和感を含んでいたのだ。


(……何かあったな)


しんとした街中で、聞こえてきたのはよく知った音色。押し黙る人、人混みのなかにぽっかりと空いた空間。その中心にいたのは――


「龍蓮」


龍蓮は、笛を吹く手を止め声のした方向をみた。そしてそこに櫂兎を見つけると、嬉しそうに口元緩ませた。


「おお、我が心の片割れよ、久しいな」

「ああ、秋以来かな。あけましておめでとう。一人なのか?」

「いや、二人だ」


龍蓮はそうして店を指さした。龍蓮の目線の先をたどれば、店内のものを珍しそうにみる茶克洵がいた。


櫂兎は目を細める。鴛洵の後継者、茶州に訪れた時も結局挨拶出来ず仕舞いだったが。


「……今もお取り込み中みたいだし、また今度かな」

「会わないのか?」

「夕飯の材料買いに来ててな、早くしないと閉まる店もあるから」


何の拍子で彼との話が積もるか分からないので、今は夕飯優先することにした。


「貴陽では、どこに泊まってるんだ? 藍邸…は、ないよな」


藍邸はきちんと訪問したことないが、龍蓮曰く風流でないとのことで滞在したがらない。


「これから心の友その一のところへ行くつもりだ」

「なるほど」


アポなし押しかけなんだろうなぁと櫂兎は内心笑いつつそれじゃあと手を振った。

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空中三回転半宙返り土下座
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