「もちろん悠舜、凛さん、これは他言無用な」
そしてもう許してください。
「私は誇れると思うのだけれど」
「いや、もう、勘弁してください」
目立つのも嫌だし知られ損だと思うんです、と櫂兎は言った。
「表舞台に立たないでこそ、見えないからこそ勝手に隠し花菖蒲印の作り手を皆想像してくれる。その像を俺、棚夏櫂兎まで引っ張ってくるつもりはないよ」
「ところで貴陽の年始売り出しは、なかなか良かったようだね。売り上げも評判も」
「だな、即完売だったし」
この寒いのに前日から列が出来ていたらしい、急ながら甘酒配るのは素敵な接客だったと思うんだ。開店前だったけど。
気まぐれに置いた甘煎餅がコアなファンを歓喜させたのだったりする。次置くのはいつかわからないが
二月からは第二店舗も開店、服も生産増えるらしい。花菖蒲印はそんなわけでいい感じにスタートを切った
「これも例によって隠し花菖蒲印なんですか?」
悠舜はそういいながらびよーんと俺の服を引っ張った。
「これは花菖蒲印の試作品、完成品はこの辺に花菖蒲印を刺繍する予定」
和服を足して割ったようなデザインで、結構着ていて楽で気に入っている。
「……っと、かなり話し込んでしまいましたね。そろそろ帰らないと」
悠舜は名残惜しそうに席を立った。
「結局悠舜の奥さん紹介じゃなくて俺の暴露話になっちゃったけどな」
櫂兎が軽く笑ったのに、夫婦二人はバツが悪そうに苦笑いした。
二人も帰り、周りの建物から明かりも消え、遠くで見えていた工部の明かりも消えた。訪れたのは静寂、そして闇。
「……俺も寝るかな」
いい加減疲れた、と櫂兎は欠伸をひとつして、蝋燭の灯りを吹き消した。
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