「邵可は暫く登城しないの?」
「ああ、近いうちにお客様がくるかもしれないんだ」
邵可の言葉に櫂兎はあぁ、と呟いた。
「玖琅君?あと黎深とかかー」
邵可は片眉を上げた。そこまで気付けば彼らの持ってくる話の内容も分かることだろう。
「俺仕事ないけど府庫に暫く泊まろうかなーって、いいかな?」
ついでに自分を訪れる者があれば府庫にいると言ってくれと言伝て数日間の荷物をまとめだした。それをみていた邵可はしょんぼりとした顔になった。
「……そ、そんな顔されると行きづらいんだけど」
「私のご飯係は……」
「気にするとこそこかよ!」
畜生心配して損した!と叫びつつ、包みを押し付けた。広げてみれば、饅頭。昼食用にと準備済みらしい。
「嬉しそうな顔されて俺は喜べばいいのか悲しめばいいのかわかんないよ……」
そう言い残して櫂兎は荷物を背負い邵可邸を出た。
府庫への廊下を歩いていた櫂兎はばったりと悠舜に出会った。
「あ、悠舜! 秀麗ちゃんとは一緒じゃねえの?」
「今から合流するところですよ」
今日もまた、工部へ行ってきますという悠舜に櫂兎はそうかと一言、少し考えてから悠舜に待ったをかけた。懐から筆と半紙を取り出してさらさらと何かをかいている。
「何ですか?」
「秀麗ちゃんに役に立つだろうことをちょっとな」
ふうんとその内容をみてみれば、何かの図形…いや、見取り図か? 記憶をさぐれば朝廷の一部と照らし合わされる。
「これは…工部とその周辺ですか?」
「あったりー」
「……」
見取り図にはいくつか矢印がかいてあり、ここから抜け道だとか尚書室に入れるだとかかいてあった。
「秀麗殿におてんばさせる気ですか」
「えー、でもだって、正攻法がダメなら強行突破だろ? だろ?」
確かに今回はそうなるかもしれない。櫂兎からの半紙を素直に受け取り悠舜は懐にいれた。
「しかし、櫂兎が秀麗殿と知った間柄だったのは、ここ最近まで知りませんでしたよ」
「え、そう? でも意外でもないだろ」
「……まあ、櫂兎ですから誰と知り合っていても驚きませんよ」
何せ燕青とも知り合っていたのだ、しかも自分が茶州へ赴くよりも前から。運命がどうとかいう話ではない、全ては出来すぎた偶然、だが――それでこその彼だ。
「そういえば、櫂兎は暫く秀麗殿の御宅に?」
壊滅的に料理のできない父の世話を彼がしてくれていたらしい、という話を秀麗からきいていたのだ。しかし櫂兎は首を横に振った。
「今日から府庫に泊まりこみ」
「そうですか」
そこまできいて、府庫の主なしで府庫に泊まりこみ許可貰えるのだから案外邵可殿と櫂兎は仲が良いのかもしれないという考えに至ったが、彼らが数十年来の友人だとはこの時点で分かれという方が無茶だった。
「ふふ、近いうちに妻を紹介しますよ」
櫂兎はその言葉に複雑そうな表情をしていた。いうなれば、平静を保とうとしているのに笑いたいような、困ったような、楽しみであるような。
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bkm