(動き読めねえんだよなぁ…)
本人に聞けば何も考えていないと返ってくる。無意識の思考か、はたまた直感でか。
近づき、間合いに触れそうになったところで櫂兎は一歩身を引く。その動きは予想している。だからこそあえてこちらも引いた。
と、珍しくそれに櫂兎がたじろいだ。そうくるとは思ってなかったらしい。これが期だと一気に間合いを詰め振りかぶる――が、剣に衝撃が落ちる。当たったのは硯――
「んでもって本命がこれだったり」
櫂兎が跳んだ、と思えば剣を蹴り上げ、剣は宙を舞った。
(硯ぶち当てられた衝撃と蹴り上げる期が絶妙だった、か)
ちぃ、と舌打ちしたがまだ勝負は諦めない。宋太傳は歳を思わせない機敏な動きで、空中の剣を掴んだ
「まだ終わってねえぞ」
またそう言って構え直す。
「いや、終わりだ」
櫂兎はそう言って両手のひらをみせて笑った
「武器、手放しちゃった」
俺の負け、と櫂兎は残念そうな顔をする
角の欠けた硯が足元に落ちていた。
「いやー、素手が一番ってことなのかな」
「剣を握る気は」
剣だったなら、また試合の話は違ったろう。しかし、櫂兎の答えは簡潔なものだった。
「ない」
そうか、とそれだけ宋太傳は言って、それきり口を閉ざした。
――結局、違和感の正体は分からずじまいだった。
それじゃあ、と、帰り道につく櫂兎の姿をみながら、宋太傳は思う。
(試合を何度しても、やたら途中で剣を投げ出したり、武器を投げ出すのは、あいつのクセか)
それは、無意識に武力放棄しているのかもしれない。戦いから逃げる――いや、
(武器を投げ捨てて武力に立ち向かうそれは――)
愚者か、賢者か。
負けてしまった、というのはそこまで気にしていなかった。ただ、何も考えず口にした、宋太傳の問い――「剣を握る気は」
「『ない』…って、折角太白さんに教えて貰ったのにもったいないよなぁ」
こんな状態、太白さんにみられたらたるんどる、と言われてしまう。
「日々鍛錬、かー」
ここしばらく縁のなかった言葉だった。
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bkm