欠けゆく白銀の砂時計 04
一部音読で満足したらしい邵可は、それ以上追求も言及もせず、また書物に没頭し始める。櫂兎も気分転換に、お気に入りの『パンダと猫』という絵本を読みだすのだった。






「……楊修」

「なんです?」

「雑用くらいなら手伝うって言ったけど、この量は明らかにおかしいだろ」

「気のせいじゃないですか?」


いい笑顔で言い切られてしまった。人が折角クッキー…皆の言うところの甘煎餅持ってきてみれば、鬼の顔で仕事していた皆が笑顔になり(そしてその笑顔すべてに黒々しいものを含ませ)、甘煎餅の大皿を奪い取り書類を次々と俺の前に積んでいったのだった。大皿を置いた中央机は人が集っている。櫂兎は、積まれた書類に動けなくなっていた。


「いい気味です」

「いいから助けろよ」

「知りません」

「……」


まだ、今でも楊修は俺が勝手にやったことで勝手にクビになってることにお怒りのようだ。いい加減許してくれてもいいのに、と思っていればそれを察したように楊修は言った。


「私だけじゃなく、皆もまだ怒ってます」


だからこれは怒りの現れじゃないですかね、と、積まれた書類の一山に肘を置いてニコリと笑った。


「これもお願いします」


ぴょこんと楊修の後ろから顔を出した珀明は、いい笑顔で巻物を三本積んだ。


「いやいや珀明くんどさくさに紛れて積まないで?! 冗談じゃなく本当に抜け出せないんじゃないのこれ!」


完璧首まで埋まっているのだ。これだけの書類あるとは…吏部おそろしや、いっそよくここまで溜めたと褒め称えたいくらい…いや、褒められることじゃないな。


「…とまあ、冗談はこれほどにしておきますけれど。っていうかそんな効くとは思ってませんでした、悪ふざけが過ぎました、すみません」


楊修は涙目で書類に埋まる櫂兎をさすがにみていられなかったらしく、手をのばし勢いよく引っ張り出した。書類は少し雪崩を起こし、櫂兎は勢いそのままに転がり出る。


「……た、たすかった…」


「別に私は何も。えー、皆さん、書類をとりにくるように」


楊修の声に、大皿を囲んでいた官吏らが渋々と言った風にこちらに戻ってきては置いた書類を回収した。


「誰が誰のって分かるのか?」

「書類、処理中のには名前ありますからねえ」

「なるほど」


櫂兎はその山から幾つか束を拾った。


「んじゃ、この分だけ手伝う」


あくまでも仕事しやすいように手伝うだけだからな、と櫂兎は念を押した。


「……本当に手伝いだけですね」

「処理しちゃったらマズイだろ、俺冗官なわけだから、侍童が出来そうな内容だけな」


楊修は、ただの侍童がこれだけの書類整頓能力を持っていたら、朝廷は侍童で回ることになるだろうと思った。

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空中三回転半宙返り土下座
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