欠けゆく白銀の砂時計 03
「遅かったね。…あれ、妙にご機嫌だね、櫂兎」

「うん、ちょっと手が滑って、な」


何がどうしてそれで機嫌よくなるのかは分からなかったが、邵可は櫂兎のことだからと簡潔に答えを出した。


「あ、雪、やんじゃってる」

「つい半刻くらい前にね」

「ふうん」


櫂兎は、お茶にしようかと湯を沸かしにいった。


「あ、櫂兎ー!茶葉きれてるー」

「…ま、まじで?」

「うん、本当」


邵可はそう言って空になった茶葉筒を見せた。


「……何処からどうみても空だ」

「白湯でいいよ」

「俺もそんな気がしてきた」


馬鹿もうつるが、面倒くさがりもうつるのかもしれなかった。







白湯であたたまった櫂兎は、また手を動かし始める。


「そういや最近、何かいてるの?」

「色々。この前完成したって言った服の様式、それ売り出すのに伴う書類作成してた」

「ふうん?」


邵可は分かったような、分かっていないような顔で櫂兎の横に積まれている書類たちを覗き込んだ。


玉の話を聞いたがすぐ程に新年、年明けと共に、「隠し花菖蒲印」改め「花菖蒲印」の初売り出しがあることを、正式に知らされた。
その記念デザインをほんの一月ほど前に完成させていたのだが、キャッチフレーズから値段付け、作成何から何までお任せしまくり、俺の仕事がほとんどなかった。申し訳ないので、何かできることがないか問えば、服で注目してほしい点、知らせたいことなどは、ということだった。
いわゆるワンポイント解説というやつだろうが、普段何も考えず浮かんだものが形になっていたりするので、これがなかなか難しかった。


李柏さん相手なら(何故か)通じた、「こう、シャキーンとしたものがぐぉーんでどぅるるるぅん」のような形容の仕方、他の人には(当たり前だが)通じないのだ。そこ、言語表現力ないとか言わない。俺は感性チックに生きている人間なのだ。
……と、まあそれは言い訳だが。


それっぽい言葉並べてみればそれっぽくなるか…と思いきやそうもいかない、納得も今ひとつできず今やっと妥協点まできたところだった


「うーんと、どれどれ?『一足早いうららかな春の風を思わせる線に』『柔らかみをもたせるため裾はたゆませ』…それからそれからー?」

「わーっ、音読やめっ、わーっ!」


(何の羞恥プレイだ!)


それからの櫂兎の行動は単純かつ素早かった。邵可の手から書類を奪い取りさっと書類の山の下のほうへと潜り込ませた。

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空中三回転半宙返り土下座
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