美味しい夕餉も終え、食後の茶を飲み一息つく。ちなみに俺が自主的に淹れた変哲もない普通のお茶だ
「明日芋けんぴでも作るかな」
そろそろ庭のさつまいもが食べごろな気がする。世話は結構な期間放置していたから、小振りかもしれない。いやしかし芋のことだ、土中の養分を吸って美味しく育っていることに賭けよう。
「芋けんぴ? ああ、去年も作ってたあれかい?」
「そ、大学芋でもいいけど、何か甘いの作りたいなって」
「ふうん。私はダイガク芋?のほうが好きかな。胡麻が香ばしいのが、また良く合って、さ。あ、作れたら府庫まで持ってきてよ」
「えー、……うーん、でも俺、今朝廷行きたくない」
駄々をこねる子供のようにむすっとした櫂兎に邵可は微笑ましいもの見るように口元緩ませ、話題を変えることにした。
「そういや君、休暇はどうだった?」
「うん、お団子美味しかった」
「……」
一言で終わった話題と、簡潔な感想に苦笑いしながら、今日はこれくらいでおやすみしようかと茶器を片付けた。
余談だが、邵可が片付けをした後、逆に散らかったのは言わずもがなである。
「私は、とんでもないことをしてしまった――の、かもしれん」
その言葉の意味を理解したと同時に、鳳珠は我が耳を疑った。
(こいつが、自分のしたことを理解した――だと?)
かもしれない、とついているとはいえ、他人に全く興味を持とうとしなかったこいつが、今それを認識した。
「……まさか、思い出した、のか?」
「…………」
無言の時と苦渋の表情は、鳳珠の問いかけを肯定していた。
「なあ、鳳珠、私はどうすればいい? 私は――」
悩む黎深の言葉を、鳳珠はすっぱりと切って捨て、簡潔な答えを導き出した。
「阿呆が、とっとと謝ってこい」
そして、問答無用で黎深の腕を引いた。
「行くぞ」
「今からか?!」
「今行かないでどうする気だ」
「だが私にも心の準備というものが」
鳳珠は苦笑いした。これではまるで、昔百合を前に何も出来なかった自分と、頼んでもないのに自分の手を引いて連れ回した黎深との立場が逆転してしまったみたいではないか。
「このままではどうせいつまで経っても埒があかないだろう」
鳳珠はそうして嫌がる黎深を引きずって櫂兎の邸へと向かいだした。
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