原作寄り道編 17
櫂兎は、まっさきに味噌汁に手を出した貘馬木に片眉をあげた。


(和食知らずが味噌汁からいくなんて…さすが貘馬木殿、怖いもの知らずだな)


味噌汁の存在知らない者からすれば、謎の濁った汁だろう。味噌汁に対する今までの人間の初邂逅の反応はそれはまあ散々だった。
ちなみに邵可は初披露時、最後まで飲むのを嫌がって、(本人は他人に毒物並みの父茶を勧めまくってるくせに、だ)無理矢理口にいれたところあっさり気にいってくれたのだったりする。


(何事も挑戦してみるものだよ、諸君。うんうん。)


深く頷いてから、櫂兎もいただきますと夕餉に手を伸ばした。


味噌汁を口にした貘馬木は、飲み込みじっくり味わうようにしてから暫く無言で、他の料理にも手を延ばしてはもくもくと食べ続けた。それから、食べる手を一度止め、箸をおき思わずという風に声を漏らした。


「……うわぁ」

「お口にあいませんでしたか?」


それには貘馬木は首を横に振った。


「いや、美味いよ、美味しい。超美味い。参ったなぁ」


本当に参った、と貘馬木は言った。


(……何だろう、勝負でもしてるつもりだったんだろうかこの人は)


料理振る舞えなんて言い出したのは、俺の腕を試したかったから、なのだろうか。何、美食家?それとも料理人?


貘馬木が料理しているところを想像した櫂兎は、それはないなと自己完結した。


(多分…普段食べているものがものなんだろう…)


貘馬木殿の奥さん、そして筆頭女官先任者である彼女の作ったお弁当を、嬉々として食べる貘馬木殿を、俺は過去に毎日といっていいほどみる機会があったわけだが…

お弁当はいつもそれは個性的だった。男の料理顔負けの豪快さに斬新な食材組み合わせ。それを幸せそうに食べる貘馬木殿は、聖人君子の域に入っていたと思う。


(俺は…お握りにきゅうりの漬物一本丸々入ってたり、お饅頭の中身が刻まれた韮だけだったり、しゅうまいの中にすもも詰めてあるお弁当は食べられる気がしないな)


愛の調味料か、それとも何か。取り敢えずそういう類のものが日常生活でずっと今まで出ていたとすると、感動するのも無理ないかもしれない。


櫂兎は生温い視線を貘馬木に向けた。


「……その視線やめてくれね?食べづらいんだけどォ」

「それは失礼しました。…貘馬木殿、ゆっくりしていいですからたくさん食べていってくださいね」

「お、おお? おう」


帰れ帰れと言われていたのに、急に態度かえられ、戸惑いながらも貘馬木は頷いた。







「これに乗れば五日もかからず茶州に着きます。水は途中補給場所ありますから、取り敢えず三日分もあれば足ります。食糧はこれをどうぞ」

「……至れり尽くせりじゃねえか棚夏。何? 急に元上司との別れがさみしくでもなったかぁ?」


櫂兎は無言で差し出していた食糧類を引っ込めた。


「わ、さっきの無し!だから頂戴それ!」

「はいはい、もってけドロボー」

「……泥棒と同胞って何となく音にてるよな」

「意味は大違いですから。ほらほら、さっさと乗って下さい、はい、さよーならー」


しっしと手を振る櫂兎に、貘馬木は苦笑いしながらトロッコに荷物を運び込んだ。

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空中三回転半宙返り土下座
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