心は藍よりも深く 01
「その顔やめねえ?」

「ええ、じゃあどんな顔でいればいいんだよぉ」


並ぶ二つの同じ顔。


「なぁ、影月」


影月は話を振られ苦笑いする。
しばらく琥漣城で仕事を手伝う燕青のそっくりさん、彼は茶州府を裏で支えてきた人の一人、貘馬木梦須が変装した姿。彼が本気をだせば見た目もさることながら、仕草や癖までそっくりで見分けがつけられなくなるらしい。元官吏として中央で働いていたらしいが、王位争いのとき巻き込まれないために茶州に来たのだとか。


「生き別れの双子の兄だった、ってことにすればいいよ」

「よくねーよ! だいたい双子でもこんなに似てねえぞ?」

「とってもそっくりさんですもんね」

「見た目だけな、見た目だけ」


燕青は顔を顰めた。どうやら自分と同じ顔の人間が動き回るのに違和感拭えないらしい。居心地が悪いとでもいうのだろうか。話もそこそこに影月は手にしていた書簡に目を戻しては、その内容に顔をほころばせた。


「茗才さんは、あと十日ほどで琥漣城に到着するみたいですねー
結構ゆっくりですけど、もしかして路銀に困ってらっしゃるとか……」

「あっちこっちの役所でとっつかまって、これ幸いと難題押し付けられてんだろ。あいつ国試に及第してっから、普通の州官よか権限も資格も段違いに持ってんだよ」

「そうなんですか!」

「あいつも変わり種だからなー」

「……ふと思ったんですけれど、貘馬木さんも中央で官吏として働いてらっしゃったんですよね」

「うぉお? え、何、そうだけど、もう辞めた身だからそーゆー権限とか残念ながら使えない。俺がずっと茶州のこと手伝えてたのは茶州が特殊な土地柄だからだしぃ」


だから表舞台にも顔を出すなんてことはなかった。今の今まで、存在は噂されていたものの、貘馬木本人を知っていたのは悠舜ただ一人だった。


「あ、あと誤解してるみたいだから言うけど俺は資蔭制で入ったクチだからな?」

「ええ?!」

「へぇー! てっきり国試受かってだと思ってたぜ」


二人とも驚きの顔にそまり、そんなに貴族っぽくないかと貘馬木は頭をぽりぽりかいた。まあ高貴なる血なんぞ自分には一滴も流れていないのだが。


「まだ国試もまともに機能してないような時代だからな、しかも俺12歳」


驚いた顔にさらに豆鉄砲でも食らったかのような顔になっている二人に苦笑する。


「お前らが驚くなよォ、資蔭制じゃそう珍しすぎることでもないってーの!
あ、それよりほれ、丙太守から速便だぜ」


貘馬木は、吸い寄せられるように届き物の山からその書簡を取り上げた。が、仮にも一応部外者なわけであり、開けることはせず燕青に渡す。


「入れ違い……じゃなくて出違いでなんかあったか?」

「もしかして“邪仙教”とかいう人たちが動き出したとかですかー……?」

「長ーい長い年月を生きて彩八仙が邪仙に変質しちゃったぞー! ちゃんと祀らないと祟っちゃうぞー! だろ?」


貘馬木は巫山戯た風にガオーと熊のように両手をあげる。燕青と見た目変わらないだけに、その姿は正に熊だった。

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空中三回転半宙返り土下座
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